今回は、自然観察指導員や鳥海山・飛島ジオパークのガイドをつとめる茂野正信さんに、鳥海山・飛島ジオパークの『すべし5ヵ条』についてお話を伺いました。

Q:茂野さんの経歴を教えてください。

60歳までは学校の事務職員をやっていました。自然観察指導員は26年間やってきていて私の原点です。年間4回は自然観察会の活動を行っています。

Q:現在はどのような活動をされているんですか?

ジオパークガイドとしての活動は3年くらいですね。登山ガイドもたまにやっています。

すべし1ヶ条目

Q:では1箇条目について教えて下さい。

まずは「にかほ市の自然を、もう一度見直して再認識すべし」です。

例えば風車です。にかほ高原には縦型の面白い形の風車がありますよね。

あれは南極風車です。南極で風力発電したいということで、南極に似た風の強いところを全国で探したらにかほ高原の風が南極の平均風速と大体似てるということが分かりました。それで南極風車を実験的に作りました。

ここで実験して、今南極にこの縦型の風車は3本立っています。南極に行く隊員たちは行く前にここでメンテナンスなどの訓練をします。それだけここは風がすごいということです。

Q:なるほど。

静岡の富士山の麓に住んでいる私の友達がにかほ高原に遊びに来て、「富士山が見えるうちの景色よりも素晴らしい。だけど何で観光客がいないの?」と言っていました。

市の方でもにかほ高原の魅力をうまく伝えていないんじゃないかなと思います。

昨年出来た仁賀保高原南展望台があるんですけど、そこにはすごく人が来ます。

天気が悪くてもここに来る。だから、私たちがずっと言っているのはひばり荘を何とかすれば南展望台から土田牧場の流れができます。

ひばり荘を何とか活性化できれば流れが点から線になるのでいいんじゃないかなと思います。

ここも仁賀保高原南展望台という名前になっているけど、ネーミング何とかならないのかと…。

鳥海山が見える展望台なんだから鳥海山パノラマ展望台とか、そういう風に鳥海山の名前を入れないと。そうでないと、鳥海山が見えない時にこの展望台に来た人に「今日は鳥海山見に来たんですか?」と聞いたら「ここは海を見る展望台じゃないんですか?」と言われたこともありましたね。

南展望台ってなると、ただ海が見えるから海の見える展望台だと思ってるんですよね。

鳥海山の展望台ってなれば鳥海山って全国的に有名だから見に来てくれる人がもっと増えるでしょって話をしてるんですけどね。 結局地元の人が地元の良さをもうちょっとアピールしないと…。地元の良さをもう一度見つめ直すべしということですね。

すべし2ヶ条目

Q:2箇条目について教えて下さい。

「自分達の土地の成り立ちを知るべし」です。そうすると見方が変わってきます。

にかほ市の住民はほとんど鳥海山の恩恵を受けてます。水にしても、土地そのものもそうです。

知ることで風景の見方が変わってきます。鳥海山が作った土地、水、そういう中で暮らしているのでそういうことを知るというのはその土地の文化を知るということでもあります。

鳥海山は何回も崩れています。40万年前から16万年前にはどんと崩れて由利原高原を作って、さらににかほ高原の上にも少し乗っかっているんです。2500年前に崩れた時にはにかほ高原があったのでぶつかって、象潟方面に流れたり冬師湿原に流れたり、今のにかほ市の市街地は鳥海山が作った土地といっていいです。

みんなにかほ市の自然が豊かだと言うけれど、豊かとは何だという話です。

にかほ市には7つの自然が全部揃ってると言います。山といっても普通の山ではないし、3種類の海岸が揃っているのも珍しいです。

平地と言ってもみんな鳥海山が作った平地なので、流れ山が点在している特殊な地形です。

そして、仁賀保高原は海のそばに屏風のようにそそり立っていて、標高500mくらいなので海の風がここに当たってしょっちゅう霧が沸いたり雨が降ったりします。にかほには面白い生き物や植物が生息していて、絶滅危惧種はにかほ高原だけで14種類います。

いろんな人がにかほ市は自然が豊かでと言うんですけど、自然の中身です。よく子どもたちにも話をするんですけど、写真を見せて緑がいっぱいあるところと普通の市街地を見せてどっちが自然が豊かと言えますか?と聞くと、やはり緑が多い方を選びます。

じゃあ…ということで次の写真を出します。ただ緑があれば自然なのかと。都会の中でも明治神宮などには木がいっぱいある。でもそういう東京は自然が豊かな土地と言えるのかというところです。にかほ市は自然が豊かだというけれど自然の中身が重要です。

Q:活用しきれていない感じはしますよね。

そうですね。山体崩壊地では湖や湿地帯がたくさんできます。冬師湿原は県の自然保全地域になっています。

また、大潟溜池には写真家がたくさん集まるのでネットで大潟溜池を検索するとたくさん写真がでてきます。でも地元の人はあまり分からない…道も悪いので。写真家の中では有名で私たちも「いつきても絶景だな」と思います。これをほったらかしておくのはもったいないなと思います。県外からもバンバン人が来ています。これを観光という訳ではないけれど、アクティビティに利用しない手はないと。

ここは風があまり当たらないのでカヌーに最適です。波が静かなときは逆さ鳥海。結構カヌーをしにくる方もいますよ。

すべし3ヶ条目

Q:3箇条目について教えて下さい。

「にかほ市の自然が豊かと言えるのは多様な生き物が生きている環境があるからだと知るべしです。」です。

たくさんの生き物が命を繋いでいる自然。多様な自然の中で色々な生き物が暮らしている…これが豊かな自然じゃないかなと思います。

それを象徴しているのがマダラナニワトンボやハッチョウトンボなどの絶滅危惧種、準絶滅危惧種です。マダラナニワトンボは全国で見ても10箇所くらいしかいません。秋田県内ではにかほ高原だけです。にかほ市を活性化させるには、まずはみんな地元をよく知ることからですね。それが非常に足りないのかなという気がします。

私は自然観察指導員ということで年間4回いろんなところを歩いているんですが、そこに来てくれる人が固定化してきています。

にかほ高原で科学ウォッチングをジオパークの方でやりましたが、子どもたちに山体崩壊とかの話をしても分からないです。そこで網を持たせてこれで昆虫を捕まえようと。そこでオニヤンマを捕まえたりしていたのですが、ある子がセミを捕まえて「可哀想だから離そうよ」なんて言っていましたね。今の子どもたちもなかなかだなと思いました。捕まえて子どもたちなりに感じるわけです。

すべし4ヶ条目

これが4箇条目になりますが、「自然は五感で楽しむべし」です。

理屈じゃないです。名前などよりもまずは捕まえる楽しさ、ふと捕まえたトンボが普通のトンボと違うぞ?何が違うのかな?とか。

どんぐり拾ったときも、自分達が暮らしているところのどんぐりと違ったりとか。今の子どもたちは木の実を食べることがないです。最初は汚いとかなかなか手を出さないですが、一粒食べると美味しいと次から次へと手がでてきます。五感で楽しむ。それからどうしてだろう、何でここにこんなのがあるんだろうとか考えを巡らせていくと、にかほ市の自然の豊かさに気付いてきます。

Q:自分で感じてみないと分からないですよね。

そうなんです。感じることが大切なんです。

説明しても子どもたちは聞いてないことがあります。だから「みんなが暮らしている土地は鳥海山が作った土地なんだよ」というと「へえ〜」となります。面白い「へえ〜」が大事なんですよ。

すべし5ヶ条目

Q:5箇条目ついて教えて下さい。

最後に言いたいのは「ゴミを捨てるな持ち帰るべし」ということです。

特にタバコの吸い殻がひどいです。南展望台へ行くと吸い殻が落ちています。自然を味わいに来て自然を汚していると。そういう人が多くて、最近は少なくなってきたけど春は特にすごいですよ。自然を楽しみに来て、自然を汚して帰るなということです。後に来る人のためにも自分の持ってきたゴミは持ち帰る。これが大事だと思います。これを力説したいです。

Q:たしかに自然を壊すのは良くないですね。

1月の中頃から2月の初めにかけてスノートレッキングがあります。

にかほのスキー場から冬師湿原まで歩きます。結構人が来るんですよ。

今年から大潟溜池もコースに組んでいます。にかほも冬も楽しめるところがたくさんあるといいんですけどね。できないとかネガティブに捉えるのではなくて、どうしたらできるのかなと考えた方がいいと思います。やれない理由を考えるよりどうしたらできるか知恵を絞るべきですよね。

Q:では最後に、茂野さんにとってにかほ市とは何ですか?

生まれ育ったところでもあるし、やっぱり自然が素晴らしい。特に鳥海山。外国の山にも結構行きましたが、鳥海山ほど素晴らしい山はないです。そういう自然に囲まれて暮らしているというところがにかほ市の素晴らしいところです。鳥海山に登ったり、遊んだり、その中の自然を紹介したりできる、というのはにかほ市のいいところですね。

最近は院内油田ですね。昔は日本一の油田地帯でしたが忘れられていて、私の父が油田に勤めていたのもあって、このまま埋もれてもいいのかと。資料を集めて施設を草刈りして、ハイキングコースを作って人々を案内しています。これまで6回くらい案内しましたね。麓から山のてっぺんまで、やっぱりにかほ市はいいところだなと思います。そういうところをぜひ皆さんに紹介して、もっと賑わいを見せてくれればいいなと思いますね。

いいところを地元の人からもうちょっと再認識してもらって、みんなが全国の人にここはいいところだと紹介できるようになればにかほ市はもっと発展すると思います。

どうやったら人が来てくれるのかもう少し真剣に考えていかないといけないと感じますね。そしてとにかく最後のゴミを捨てるなというのは強調したいです。

自然について考えさせられるような、発見があるお話でした。茂野正信さん、ありがとうございました!

この記事を書いた人

茂野正信

学校の事務職員を経験し、自然観察指導員や鳥海山・飛島ジオパークのガイドをつとめている。自然観察指導員として26年間、飛島ジオパークのガイドは3年間活動しており、現在も自然や飛島ジオパークのガイドとして活躍中。