今回は、伊藤製麺所の伊藤実さんにインタビューしました。

製麺所で働く1日にはどんなルーティンがあるのでしょうか?詳しくお話を聞いてみました!

Q:これまでの経歴を教えてください。

地元の小、中、高校を卒業して県外の大学に行きました。卒業後、秋田市の企業に就職しました。社会人になり、一人暮らしの中で、台所に我が家のきさかたうどんがあり、何気に食べたら凄く美味しくて、「家業を終わらせてよいのかな?」「帰って継いだほうがいいのかな?」って考え始めました。

当時は浅い考えだったので、その気持ちは時間がたてば消えるものだと思っていましたが段々と気持ちが強くなってきて……これは本当にやりたい事だと感じ、父に製麺所を継ぎたい意向を相談しました。父からは見習いに行ったほうが良いと5社くらい探してもらい、その中の一つに行かせてもらいました。

業者さんのアドバイスもあり、大企業ではなく、家族経営に少人数の従業員がいる会社を選びました。その方が、戻ってきたときに活かせる事が多いと考えました。そこでは製造はもちろんですが、人との関わりや営業面を教えていただきました。作ることは誰でもできますが人との関わりを大切にしていくことの重要性を教えてもらいました。 そこで約2年働いた後に、にかほ市に帰ってきました。

Q:現在の活動について教えてください。

麺の製造を行っています。麺の種類は、乾麺・茹で麺・生麺とあるのですが、うちのシェアの半分は乾麺です。

初代から作られている「きさかたうどん」が、経営の土台となっています。地元の皆さんに育てていただいた「きさかたうどん」を活かしながら、にかほ市の物を使った商品を開発して貢献できないかと考えたのが「タラーメン」です。

スープはにかほ市産の鱈の魚醤を使用し、麺はきさかたうどんの製法を使った中華麺を作りました。5年前に開発して、今は商品が一人歩きできるように営業活動をしています。

また、地元の学校給食や病院にも麺を提供しています。子供たちに地元にはこのように麺を作っている所があるよ、子供のころ給食で食べた麺が懐かしいなと記憶に残り、食によって郷土愛が生まれたりしたら嬉しいですね。

Q:初代から作られている象潟うどんの特徴はどういったところですか?

多くのうどんはつるつるとした食感を出す為に原料にデンプンを使っていることが多いのですが、デンプンは口飽きするというか・・・食べていると飽きてくると思っています。

うちのうどんはデンプンを加えなくても、ツルツルするような製法で食べやすく飽きのこないのが特徴だと思います。

うどんには男と女がある?!

Q:コシの特徴などありますか?

極端にいうと、うどんには男と女があるのですよ。男の方はコシが強い。例えば、讃岐うどんとか、そのような感じです。女の方は伊勢うどんや大阪の柔らかいうどんなどですね。

象潟うどんは女のうどんなのかなと思っています。そんなにコシが強いわけでもなく、そんなにヤワでもないのですが、しなやかな麺です。太さは、ひらべったい麺でツルッとしています。

Q:例えが面白いですね!

Q:お仕事のなかでどのような想いで仕事をしていますか?

お客さんに美味しいと思われる物を作りたいのもありますし、地元に育ててもらっているので、長く続けていけるような体制を整えなくてはならないと思っています。

ルーティン

AM 4:00 起床

AM 4:10 仕事スタート。毎朝、鳥海山をチェック。

朝には鳥海山を見て天気のチェックをします。ただ冬だと暗いので鳥海山が見えないのですがタイミングを見て毎日鳥海山はチェックしています。

鳥海山が見れて天気がいいと元気を貰えるし、天気がいいから忙しくなるかなといった気持ちの面で力をもらい、明るい気持ちになります。鳥海山は気分を上げてくれますね。旅行に行って帰ってきて鳥海山を見るとほっとします。

起きてすぐは体のリセットのためにストレッチを5分ほど毎日行っています。

20代後半から続けていて、ストレッチすると気持ちが入りますし、しないとリズムが崩れてしまう気がします。

あとは、1口水を飲み、朝ごはんは、4:00〜8:00の仕事で一段落してから食べます。

Q:4:00〜8:00の間は何をしていますか?

日によって違いますが、麺の生地を作る仕事をします。「めんたい」と言って麺を平らにして、筒状にして、袋に入れた物を熟成させる作業です。

AM 8:00〜9:00   朝ごはんを食べる

AM 9:00〜12:00   仕事

Q:9:00〜12:00の間は何をしていますか?

9:00〜12:00までは次の仕事に入ります。4:00〜8:00までの時間は熟成した麺を切り出して、乾燥させる仕事に入ります。私が4:00に始めて父が5:00に来て2人で作業します。

AM 12:00 昼食は必ず麺を食べる

昼食には必ず麺を食べます。アレンジすることなく素の麺で、自分の作った物をチェックする意味もあり毎日麺を食べています。

休みの日も麺を食べてしまいますし、外食する時も昼ご飯は麺を食べてしまいます。

天候や温度湿度によって違うものができるので、大きい企業だと空調で管理されているけれど、うちの場合はそんなことなくて、温度によって水の出し方が違ってくるので、安定した物を作るために食べています。特に季節の変わり目は変わってしまうので、難しい時もありますね。

昼食後にはアイスを食べます。これは至福の時です。(笑) アイスを食べる理由は単純においしいからです。特に理由はありませんが、「昼も頑張るぞ!」みたいなものもあるのかもしれません。アイスが好きで1日2〜3本食べますね。

Q:振り返りの意味を込めて、昼食は麺。まさに仕事人ですね。休みの日も食べてしまうのもルーティン化されている証拠ですね。

Q:昼食後13:00〜は何をしますか?

昼食後13:00から、午後の仕事が始まります。作業内容としては、工場で業務用中華麺の袋詰め作業や乾いた乾麺の切断作業をしています。

乾麺は1回の製造で1,600袋できるので切断作業だけで3時間以上かかります。平均的に週に2回の乾麺製造を行っています。

工場の作業ばかりになると人との接する事がなく、人との繋がりがもてないので乾麺の製造がない時は積極的に外部の人と打ち合わせをしたり、営業活動をするように心がけています。

人とのつながりで仕事をいただく事もあり、話していると「伊藤さんにお願いしようかな」と直接言ってもらうこともあり、仕事の広がりを実感します。

Q:お仕事をする上でのこだわりはありますか?

 一番のこだわりは安定した物を作る事です。

また材料のこだわりもあります。例えば、粉の種類が沢山あるので、その中から自分に合った物をブレンドして作っていくこだわりがあります。

その会社によってブレンドする粉も違いますし、またここら辺は水がいいので恵まれている土地だと思います。

鳥海山の麓で何かを販売している人は水の恩恵を受けていると思います。やはり水によって全然違ってくるので。うちも鳥海山の軟水を使っているのですが全然違います。違いとしては生地に浸透しやすくなり、艶やかな生地になりますね。

熟成すればするほどまた艶やかになってくるので、それを見てよし!って思います。 触った感じから違いますね。やはり水のおかげで美味しいものができていると思います。材料にこだわりながらも水がいいので。

Q:お客さんに対してのこだわりはありますか?

パッケージにはにかほ市を表現したいので、全て鳥海山が入っていますし、「タラーメン」に関しては日本海がデザインとして記されています。

こだわっているデザインは”ねむの花”をつけています。なのでお客さんが買うときは「ねむの花の入ったうどん買ってきて」みたいな目印となっています。

うどんは地味だと思うので女性にも手にとってもらいたい思いから、可愛いパッケージをデザイナーに頼み、花の模様を作りました。ねむの花の理由は象潟の花だからです。

Q:素敵ですね。

Q:工場と販売所を二つ経営されていると思いますが昔からの形態ですか?

昔は自宅のなかに店と製造する場所があり、限られたスペースの中で製造していましたが、時代の変化とともに食品の品質管理など整えることや販売の規模を拡大したい事などがあり自宅の近くに工場を建てました。

今は製造は工場で麺の販売は自宅兼店舗で行っています。

Q:お仕事のやりがいはどんな時に感じますか?

納得のいく麺が作れた時ですね。麺は温度や湿度によって変化するので難しい部分もありますが、自分の経験や勘で調節しながら製麺するということを毎日やっています。むらのない麺を作ることを大事に考えています。

そして、お客さんに美味しいと喜んでもらえた時や、また買いに来てくれた時に嬉しく思い、やりがいを感じます。

Q:地元の飲食店や給食にも出しているのでそこに対するやりがいも感じますか?

あります。子供に関しては昔は工場見学とかにも来てくれて、喜んで帰ってくれますね。

ここで給食を作っていると言うと驚きますし、子供が好きな給食ランキングでも中華が一番なんですよ。なのでたまにうちの前を子供が通って、「今日の給食美味しかったよ」って言われると嬉しいですね。多分一番嬉しいかもしれないです。子供は嘘をつかないので。(笑)

地元で作っているものが、給食に出ることの難しさが他の地域ではあるかと思いますが、にかほ市では生産者さんの顔がわかるのですごいと思います。田舎の良さがあると思います。

給食センターが学校の近くにあり、温かい美味しいものが食べられるので恵まれていると思いますね。子供の頃はただ聞いて流しているだけかもしれないですが、大人になるにつれて、そう感じてもらえると地元に帰ってくると思います。

PM 20:00   軽い運動をする

走ったりしています。最近は忙しくてできないが、ちょっと前はトライアスロンをしていて、何かしら体力を持続させるために走ったりバイクに乗ったりします。

毎年来年やろうと思いますがやらずに来ています。(笑)どのくらい運動していたら完走できるか分かるので、これしか走れないと無理だろうみたいに考えています。

前は400人〜500人ほど来ていて、海外の人も来ていましたよ。また走っている時とかは汗をかいて、仕事のこともいいアイデアが出たりします。

PM 21:00〜 風呂あがり、ストレッチをして指先のケアをする

指のケアは毎日します。小麦粉から水分が取られるのでガサガサになってしまうので保湿をしたりケアをしています。これは毎日しています。

Q:今後の展開について教えてください。

今ある商品の品質を落とさず大切に作りながら新商品を作りたいという考えは常に持っています。きさかたうどんは年配の方に多く食べられていますが、若い世代にも食べてほしいと思っています。

特に若い世代は時間がないと思うので、例えばフリーズドライにして茹で時間を短縮できないか?とか、スープをセットにして、より手軽に食べれるようにできないか考えています。

県外のお客様から電話やメールをいただき、美味しかったので注文したいと言ってもらえる事も多くそういった機会も大事にしていきたいです。

Q:最後に…伊藤さんにとってにかほ市とは?

最高な場所ですね。人もいいし、自然はあるし、美味しいものもあるし…。旅行に行っても感動がそこまでないですよね。美味しいものもあり、景色も絶景があるので最高だと感じています。

本当は戻ってくるつもりはなかったので、あの時、食べて美味しいと感動したのがあったからこそ、戻ってきてこの町を好きになったのだと思います。改めていい所だと気付きました。

Q:美味しいという感動体験が、伊藤さんの大きなターニングポイントになっているんですね。

まさに仕事人!と感じるルーティンもあり、麺づくりへのこだわりを感じました。 伊藤実さん、ありがとうございました!

この記事を書いた人

伊藤実

大学卒業後、秋田県内の企業に就職。『きさかたうどん』の魅力を再確認し、家業である伊藤製麺所を継ぐ。地元の学校給食や病院にも麺を提供している。