今回は、にかほ市の車体設備店『斎藤ボデー工場』を営む斎藤 啓太さんにインタビューしました。交通手段の少ない地方にとって車は生活必需品です。そんな生活の一部を支える仕事のルーティンとは?詳しくお話を聞いてみました!
Q:まずはじめに斎藤さんのご経歴と現在の活動内容について教えてください。
にかほ市の象潟町出身で、高校を卒業してからは群馬県の『富士重工業株式会社』に就職しました。働きながら整備士の学校に通って国家整備士2級を取得して、今は家業の『斎藤ボデー工場』(車体設備店)で働いています。
Q:元々そういった仕事に就きたかったんですか?それとも家業で触れていたからですか?
兄弟3人全員車関係です。自分は末っ子で、小さい頃は車関係の仕事が夢だったんですけど、やりたいことは服屋さんでした。そういうのになりたかったです。
Q:でも服飾関係の道にはいかなかったんですね。
なんででしょうね。(笑)でもそこに就職したのは、親戚のおじさんが自分が生まれたときにちょうど亡くなって、自分は生まれ変わりだと言われてました。そのおじさんがそこ(※富士重工業株式会社)の社員でした。「生まれ変わりだって言われているから、お前もそこに行くか」って言われました。大手企業なので入社できることも滅多にないので。そこで働けば、学校も付いているので整備士の免許も取れるし、整備士の免許を取ったら地元に帰ってくることもできるし。ある程度、資格もないと車の仕事はうまくいかないので、そういう面で見れば良かったかなと思います。地元を離れて1人で生活するのも良い経験になったかなと思います。
Q:そこで働いてにかほ市に戻ってきたという感じなんですね。
そうです。
Q:ではそのままルーティンのお話を聞いていきたいと思います。まず仕事前のルーティンについて教えてください。
ルーティン
AM 6:30 起床、コーヒーを飲む
だいたい6時半頃に目覚まし時計が鳴って、もう1回寝るんですけど。(笑)そのあとは、数年前までは嫁のおばあちゃんが淹れたコーヒーを飲んでいました。今は嫁のお母さんが淹れてくれるコーヒーを飲んでいます。それはルーティンです。自分が淹れたら美味しくないので。おばあちゃんの淹れたコーヒーは極端に少なくて、お母さんのは多くて、飲み干さないからいつも怒られるのが毎朝のルーティンです。(笑)
Q:そこまでがルーティンなんですね。(笑)
AM 7:30 車検のある日は秋田市の陸運局へ
その後は8時頃に仕事場に向かうか、車検のある日は7時半に秋田市の陸運局に向かいます。平日の大半は、陸運局に車を積んだトラックで向かっています。そして車の中で恋愛リアリティー番組をずっと見ています。(笑)
Q:どんなのを見るんですか?
AbemaTVで見ています。そういうのを見ていて、嫁からもおかしいって言われてます。(笑)
Q:面白いですよね。(笑)
到着後、仕事開始
Q:到着後にお仕事に入られると思うんですけど、具体的にどのようなことをしているんですか?
基本”車屋さん”って分業なんですけど、うちはあまり分業がないので、車検整備したり、板金塗装したり、オーディオ取り付けしたり…あとはそのときの一般修理をしたりしています。基本は整備の工場だったら整備だけとか、板金の工場なら板金、オーディオを取り付けるところならオーディオだけ、という感じなんですけど、私は毎日違うことをしているのでそこが楽しいですね。
あまり決まったことはないんですけど、だいたい決まっているのは、秋田市に行って12時頃に帰ってきて、そこからお昼ご飯を食べて13時まで休憩して、13時からは次の日の車の整備です。次の日の朝の車検の整備をして、それをしながら、その日入ってくるお客さんの車の作業をするみたいな感じです。空いている時間があったら頼まれている仕事をやって…という感じですね。
一つに縛られず、毎日違う仕事を。
Q:それがだいたいのルーティンという感じですかね。
そうですね。あとは電話対応をしたり、その中にロードサービスが入れば時間があれば出ています。基本は工場の中での仕事があるので、毎日工場の中で働いている感じですね。
Q:車関係の仕事はすごく繊細な部分もあるなと感じるのですが、実際にやっていて大変なところはどこですか?
やっぱり車も常に進化しているので、これができればいいという訳でもないですし、物が新しくなっている分、自分も勉強し続けなければいけないです。取り付け方法も違いますし、いつまでも勉強かなと思います。
何の仕事をしていてもそうですけど、半人前くらいの方がいいかなというか…いつまでも半人前なのかなと思いますね。やっぱり上には上がいますし、新しいものがどんどん入ってくるから、常に勉強していかないと厳しいかなと思います。
Q:たしかに車はどんどん新しくなっていきますからね。
やっぱり車は購入するときも、すごく高い買い物ですよね。就職したときは車を造っていた側の人間なので、車を造るときはお客さんの顔も見えないですし、どういう思いで買うのかも、金額もよく分からないまま、1日中車を造っているので、それにうなされる毎日みたいな…。本当に車で追いかけられる夢とかすごい見ました。タイヤ交換の時期とかはタイヤに追いかけられる夢とか。(笑)
物を作っているだけだと、それが何に使われているかあまり分からないですし、すごい適当に作ってしまうんですけど、お客さんの買う想いとかが分かれば扱いも丁寧にしないといけないですし、その辺は気を遣ってやっています。
あとはどうしても修理も高額になりますし、高い買い物なので、車検に出せばお客さんは安心して2年間乗れるもんだと思っているんですけど、やっぱり”乗る側の人”と”管理する側の人”って感じ方が違うと思っています。なので、お客さんにどれだけアドバイスできるか、安心して乗ってもらえるかを考えています。
車もめちゃくちゃ普及してて、誰でも乗れますけど、壊れない乗り物でもないですし、安全な乗り物でもないので、その人が乗っていて安全に暮らせるような物を提供できるように心がけていますね。
Q:なるほど。
壊れてしまって、もし事故が起きて何かあってしまったら、運転手だけの責任でもないと思いますし、そんなに安全な乗り物でもないので、その辺は考えています。
Q:お客さんも信頼して斎藤さんに任せているというところもありますよね。
そうですね。結構おまかせでやらせてもらっているので、その分、安い提案とかはあまりしないですけど、「これならいいよ」というものを提供していかないとと思います。こちらもプロなので。(笑)
ここは我慢できるっていう部分もありますけど、自分が全部やっている分、ここはこうしようとか、お客さんと寄り添っていければと思います。生活の一部なので。
Q:そうですよね。特ににかほ市内での生活では必要ですしね。
その一部の中に入れれば1番幸せかなと思いますね。
Q:とてもかっこいいですね!
Q:ちなみに『斎藤ボデー』さんはどのくらい続いているんですか?
46年か47年くらいですね。50年を迎えるくらいには新しい工場が建っていればいいかなと思っています。
Q:もうすでに進んでいるんですか?
来年建設予定です。大きくやって、大きく商売しようという気はないんですけど、今よりお客さんが入りやすくなってくれれば、それでいいですね。そんなに新規顧客をめちゃくちゃ求めている訳でもないんですけど…。
今もお客さんがあっての仕事なので、お客さんの車をもっと良い環境で整備できればな…くらいです。何年やっていけるか分からないですけど。
実際、車業界もどんどん新しくなって衰退していくところもありますし、それを分かっている上で、できる限り遊びに来てもらえる環境ができればいいかなと思います。
Q:今やれることをという感じなんですね。
そうですね。今も小さいところで、山の中でやっていますけど、お客さんはひっきりなしに来てくれます。新車販売も中古車の販売も、コロナ禍でもある程度、断続的に続いていたので、頼ってもらえることが金額以上に幸せかなと思います。誰かに頼られるっていうのが1番幸せだと思います。
Q:誰かに頼られるときにやりがいを感じるんですね。
そうですね。父とやっているんですけど、ほぼ自分1人なので、手が回らなくてお客さんにも迷惑をかけているし、明日はこれをやらなきゃいけないし、これもやらなきゃいけないってなるんですけど、仕事がある以上、幸せなんだなと思って生活しています。
家に帰って仕事の不満とかも色々と言いたいけど、でも仕事の不満より幸せだと思ってやっていればなんとかなるかなというくらいです。子どもには「車の仕事はやらなくてもいいよ」と言っていて、どの仕事でも誰かの役に立っていると私は思っているので。
すごい小さい部品を作っていても、最終的には誰かのためになっていると思うので、誰かのためになれるのは大人になって幸せだなと思います。みんな意味のある仕事をしているなって思っています。
Q:必ず何かに繋がっていますからね。
そうです。以前の仕事では、「毎日同じことをして給料をいっぱいもらえるし…」と思っていたけど、「何のためにやっているのかな」という気持ちもありました。こっちもそんなに便利でもないし、自分が見たかった物が今はすぐには手に届かない田舎ですけど、田舎は田舎で幸せかなと思いますね。人との繋がりが幸せかなと思います。
Q:夜は何時頃に終わるんですか?
だいたい18時頃に終わるようにして帰宅して、嫁と2人でご飯を食べます。子どもたちは先に食べてるので。
PM 18:00 仕事終了
Q:そうなんですね。お子さんは今何歳なんですか?
小6と小4です。今年は子どものサッカーが小6で最後の1年だったので、それに全力を尽くしました。(笑)
Q:土日は基本的にお休みなんですか?
日曜日が第2、第4で、基本的には水曜日休みです。休みの日はゴルフに行ったりとか、子どものサッカーを見に行ったりしています。
Q:なるほど。食後、ご自宅ではどのように過ごされていますか?
ご飯を食べたあとは4人でだらだらしてます。それかトランプとかをして、一緒にお風呂に入っています。自分はだらだらしているので23時過ぎまで寝ないですね。毎日何かをするっていうことはないですけど、子どもと「今日何があった?」とか話をします。子どもと話すのは結構大事にしています。サッカーの送り迎えのときとかも「今日のサッカーどうだった?」とかを聞くのが毎日の楽しみでもあるし、日常という感じですね。
自宅では子どもとの会話を大事に。
Q:送り迎えも大変そうですね。
うちの子は平日の夜がメインなので21時頃に迎えに行くという感じですね。次男はHIPHOPダンスをやっていて、それも夜ですね。今年はほとんど休日はお兄ちゃんのサッカーだったかなという感じですね。
Q:やっぱり仕事と学校で時間があまり合わない分、子どもたちと話す時間は大切ですね。
そうですね。でもうちは結構4人で遊ぶことが多くて、キャンプに行くのも好きですね。
Q:素敵ですね!
Q:では最後の質問ですが、斎藤さんにとってにかほ市とは何ですか?
1回外に(県外に)出て帰って来たときは、何もかも綺麗だと思いました。人も景観も綺麗ですし、それは離れてから気付きました。人と環境が綺麗です。(笑)
Q:1回県外に出たからこそ気付けますよね。
そうですね。田舎特有の馴れ合いと言えば馴れ合いなんですけど、人生の中でそういう経験は重要かなと思いますね。横の繋がりだとか、人と会ったときにあまり咎めないというか…この辺の人はそういうのがあまりないですよね。それがいいか悪いかって言ったら分からないですけど、それが心地いいなと思いますね。
どんな乗り物でも事故が起こり得る可能性はありますが、その中でも車はとても身近な乗り物だと思います。その車を安全に乗れるようにサポートしてくれる人がいるからこそ、誰でも乗ることができ、便利に暮らせるのだと思いました。
斎藤 啓太さん、ありがとうございました!