にかほ市で無農薬農家として活躍している佐々木 大作さんにインタビューしました。農家を継承し、無農薬農家の道に進んだ経緯や想いまでお話を聞いてみました。

Q:大作さんの経歴と現在の活動内容について教えてください。

上郷(※にかほ市の地区)で生まれて上郷で育ってずっと住んでいます。高校は由利工業高校へ行ったんですけど、そのときは何も考えていなかったです。そのまま就職して、地元の工場で働いていました。農業をするという考えは全くなくて、父親が農業をやっていて、手伝いをしろと言われてて。その頃は嫌でした。(笑)しぶしぶ手伝っていましたが、父が亡くなったというのをきっかけに農業をしました。

Q:そういった経緯だったんですね。

その間に結婚もしましたし、子どももできて。子どもができてから食べ物のことを考えるようになりました。農業をする気はなかったんですけど、家で食べれるくらいの家庭菜園とかを無農薬で作って、子どもに食べさせたいなと思い勉強し始めたんですよ。セミナーに行ったりして、父親からちょっとだけ場所を借りて始めようかなと思っていたら、急に父親が亡くなって…それで米農家になりました。それも父が死ぬ時まではやろうとは思っていなかったです。

春の種まきの準備をしぶしぶ手伝っているときで、父が朝、具合が悪くて救急で病院に行ってきたようで、具合が悪そうだったので休ませておきました。具合が悪い中でも、弟が食堂を始めたときだったので「最近どのくらい入ってるんだ?」とか心配していて。その日は早めに切り上げて、また明日に続きをやろうと言って、私は妻と買い出しに行ったんですよ。15時頃出かけて、17時頃に先に母親が帰り電話がきて、風呂で…という感じでした。

作業の途中だったので、近所の田んぼをやっている人にも「やるなら今すぐ決めないといけないよ」と言われました。「やらないで辞めるより、まずやってみれば?」と言われて、やってみようかなと思って始めました。

Q:なるほど。

その近所の先輩たちに聞いて、まず1年やってみました。そのときは教えてもらった通り、除草剤とか農薬肥料とかを使ってやってみました。できたからとりあえずはいいんですけど、1年やってみて、やっぱり自分で作るなら無農薬のものを作りたいなって思って。そういうのを食べさせたいし、自分も食べたいなと思いました。作業で、自分で薬を撒くわけじゃないですか。自分がその作業をするのが嫌なんですよね。薬を撒いた後の田んぼに入りたくないなって思っちゃうんですよね。やりたくない仕事はしたくないじゃないですか。(笑)

Q:そうですね。(笑)

そこは「こういうのがしたいな」という気持ちに正直に動きました。そこから田んぼ1枚を無農薬でやり始めたんですよ。そしたらできたんですよ。そこからちょっとずつ増やして2枚やってみようとか。

Q:最初は1枚から初めて徐々にという感じなんですね。

そうです。今年からは全部無農薬です。

Q:なるほど。今年で何年目になるんですか?

5年ですかね。4年目で半分くらいやって、その4年目が大変でした。

Q:そうだったんですか?

普通、田んぼって10aで9俵から10俵ぐらい獲れるんですけど、30kgの袋で表すと20袋ぐらい獲れるところが、2袋ぐらいしか獲れないぐらいです。それすら獲れなかったような。(笑)だけどそれで辞めようとかは思わなかったですね。来年はもっと良くなると思っていたので、辞めようと思わず今年から全部やろうと決めました。それでも思ったよりはできなかったですね。

Q:やっぱり無農薬ならではの難しさがあるんですか?

そうですね。除草剤を使わないので雑草の問題とかですかね。病気はそこまでならないですけど。

Q:除草剤を使わないと雑草が生えてきちゃうと思うんですけど、そのときは手作業ですか?

『除草機』という機械があるのでそういうのを使っているんですけど、まだ勉強中ですね。秋から春にかけての作業が大事だなとか、どういう風な状態で田植えを迎えるかとか。そういうのはなかなか難しいじゃないですか。

Q:そうですよね。この辺りで無農薬でやられている方は結構いらっしゃるんですか?

そんなにはいないんじゃないですかね。「自分ちの分だけ」っていう人はたまに聞きますね。それって自分たちが食べるのは無農薬がいいってことは、みんなそう思っているってことなんですよね。(笑)自分が食べたい物を消費者にも食べてもらいたいじゃないですか。自分が農薬を使ったものを食べたくないと思ってこうやって作っているので、食べたくない物を売りたくないんですよ。

Q:無農薬というのもそうですけど、お米を育てる中で難しい部分はありますか?

今の時点ではちゃんとできてないっていうのが自分自身の大変なことですかね。でもそれは次は良くなると思ってやっているし、自分自身はあまり気にしてはいないけど、今年やったからすぐ良くできるっていうことはそんなにないと思うので。

Q:なるほど。逆に良かったと思う瞬間はどんなときですか?

それはもういっぱいあります。(笑)やらないで考えていると、自分が考えていることしか計算できないというか、想像できないというか…でも一歩踏み出してやったら自分が思ってなかった人が助けてくれたり、そういう出会いがあったりとか。そういうのは良かったなって思います。それが良い方向に繋がってこうやってできているのかなって思いますね。来年もやっていこうって思えたし、わずかな収量だけど食べてくれる人がいて、嬉しい言葉をもらったりだとか。そういうのも嬉しいかなって思います。

Q:それは嬉しいですね。

あとは気にして「何やってるの?」と声をかけてくれて。こういうことを説明すると「俺らは年寄りだからなかなかできないけど、なかなかできることでもないから頑張れ」って励ましの言葉をもらったりとか。よく参考にしている雑誌とかを見ると、「農薬を使わないからお前のところから虫が来る」とか、そういう苦情がくるっていうのをよく見るんですが、ここの人は暖かくて。今年は特に、去年がひどかったから去年から見ている人は「今年は良いじゃん」って。(笑)結構みんな優しく見ていてくれますね。

Q:今年は良かったんですか?(※取材時2022年)

いや、ぜんぜんです。それこそ10俵獲れるぐらいだとすると、うちは1〜3俵くらいでした。だけどまた来年良くなるポイントを自分でもここだなと思っているので、それをどんどんやっていくのは楽しいですし、良くなるとしか思えないので。

Q:自分が楽しいのは一番いいですよね。

そうそう。ちょっと話がずれるんですけど、妻と趣味の話になって、「趣味を持ってる人っていいよね」「あった方がいいじゃん」みたいな話になりました。例えばスポーツとか。自分はこれをやっているのが一番楽しいんですよ。(笑)

Q:すごくいいことですね。今はどんな思いで取り組まれていますか?

ここは山があって、すぐ海があるじゃないですか。鳥海山から流れてきた水でお米を作って、そのお米を作った水って川とか海に流れていって循環していくと思うんですけど、お米を作っていて水を汚したくないなと思いました。だから本当はみんなにやってほしいんだけど、自分がちゃんとできるようになったのを誰かが見ていてくれれば、「できるな」って思った人が挑戦できるというか…。「無農薬で出来るじゃん」って思ってくれて、そういう農家が増えてくれればいいなって思います。そしたらにかほ市の環境がもっと綺麗になるかなとかは思っています。

Q:なるほど。そういったものをなぜ継承していくのか思いがあれば教えてください。

日本中がお米を食べるって大事かなと思ったんです。農家をやるまで何とも思ってなかったですけど。食べ物を気にするようになって色々調べたんです。自分も昔、痛風になったときがあって、そこから自分が食べる物を気にし始めるようになりました。でもその時は痛風に関することしか調べなかったんですけど。

今、”なんで日本人が癌になる人が多いのか”とかも調べていくと、食べ物って大事なのかなと思いました。日本人はずっとお米を食べてきたから、お米を食べた方がそういう病気になりにくいっていうのは最近の考えです。

Q:これからやってみたいこともあるんですか?

新たにという訳ではないですけど、もっとこういうことをしてくれる人が増えるように。あとは、子どもたちに食べてほしいなと思います。やっぱり農家をやってくれる人が増えないとそこまでたどり着かないので。

Q:ご自身でも田んぼの面積を増やしていきたいというのもあるんですか?

増やしていきたい訳ではないんですよ、個人的に。それこそ自分がいっぱいやるんじゃなくて、やる人が増えてほしいんです。自分が儲けるための、搾取していくような農業ではなくて、循環とか自然を考えてやっていければいいなという考えの農家が増えたらいいなと思います。イコール面積が増えたら良いなと言う感じです。

Q:自分だけではなく、という感じなんですね。

そうです。やっぱり限界もあるので。(笑)でも周りが高齢になってきているので、来年は今年よりいっぱいやりますし、自分ができるときはやりたいです。無くなってしまったらその後もできないじゃないですか。今はすごく農地も減っていますし。

Q:そうですよね。

潰しちゃったら元に戻すのもまた何倍も大変かなと思います。だからやっていかないといけないかなとも思います。

Q:新しい方が増えていくといいですね。

そうですね。だからこそ自分がやってみてどうなのかなっていうのも、誰かに伝えられればいいなと思っています。

Q:では最後の質問になりますが、大作さんにとってにかほ市とは何ですか?

なんだかんだ言って居心地の良いところなのかなって思います。あんまり他に住んだことがないから強く思うことはないけど、都会とかに住みたいという気もなくて、自分は住みたくないなくらいに思っています。(笑)ちょっと落ち着かないので。

Q:ずっと住んでいる場所が居心地の良いというのは素敵なことですね。

「嫌だな」とか「出たいな」とか思ったことがないですね。他の地域だと苦情がくることも、ここは助けてくれて。実際、ぱっと会ったときってそんなに愛想のいい人たちではないんですけど、ちゃんと見て助けてくれる人たちですごく感謝しています。そういう人たちも暖かいなと思いますね。



ある日突然、米農家を引き継ぎ、さらに無農薬で作るということは簡単なことではなかったと思います。その中で試行錯誤しながら、楽しみながら農家をやっている佐々木さんの活動が発信されていくといいなと思いました。
また、お話を聞いてお米を作るだけではなく、環境問題や自然について考えることもこれからの時代は特に必要な事だと感じました。

佐々木 大作さん、ありがとうございました!

この記事を書いた人

佐々木 大作

にかほ市で生まれ育ち、父親がきっかけで農家になる。以降、無農薬農家として活躍している。