今回は、象潟郷土資料館で文化財を担当され、大学院生でもある齋藤一樹さんにインタビューしました。
にかほ市の豊かな自然や歴史、文化を物語る貴重な文化財。
その貴重な文化財を護るためにどんな活動をされているか伺います。
Q:ご経歴と現在どんな仕事をしているか教えてください。
昭和59年に象潟町役場の職員になり、令和3年3月で退職し、その年の4月から再任用で文化財保護課専門員として象潟郷土資料館で働いています。また、文化財を調査するためには幅広い知識が必要だと思い、令和4年4月から東北大学大学院文学研究科に入学し、いろいろ勉強しています。
Q:再任された経緯を教えてください。
現役のころは文化財担当が長く、象潟郷土資料館の学芸員も務めました。退職をしてから、これまでかかわってきた文化財をさらに調査し、また池田修三さんの作品や資料を整理したくて再任用を希望しました。
Q:学芸員の資格とはどういったものですか?
「博物館法」にあるんですが、こういう資料館や博物館で色々調査したり、資料を集めたり、展示を企画したりする専門職員の資格です。
”文化財担当”になるまで。
Q:文化財担当に携わるようになったきっかけを教えてください。
象潟町役場の時に、たまたま異動でこの象潟郷土資料館に配属されました。文化財を担当し、自然、民俗、歴史あらゆる分野に貴重なものがあって感動したのがはじまりです。
例えば、2236mの鳥海山があり、日本海もあります。日本では2000mを超える山と海を併せ持っている地域はそうはありません。山と海それぞれに歴史と文化があり、食べ物も豊かな自然の恩恵を受けて実に多彩です。こういう恵まれた地域ですから、旧象潟町のころからさまざまな分野の専門の先生方が調査に来られていましたので、私は同行しながらいろいろ学んできました。
学んだことをたくさんの人に知ってもらいたいと思い、テーマを設けて資料館で企画展示したり、にかほ市郷土史研究会の研究誌『雄波郷』に寄稿したりしてきました。そのほか、依頼されれば各町内や市内外のグループの研修会などで講演し、にかほ市のすばらしさを紹介するようにしています。
Q:この資料館で働く上で、大変なことはありましたか?
働く上で大変というより、全ての面で後継者不足になっていることがすごく気がかりです。特に伝統芸能関係は深刻で、にかほ市では5地域で番楽を行っているのですが、中には若い人たちがいなくて、番楽舞ができなくなっているところもあります。
Q:象潟郷土資料館とはどういったところですか?
「象潟」は昔、たくさんの島を浮かべた入り江で、平安時代から和歌に詠まれてきた名所でした。でも江戸後期の地震で土地が隆起して陸になってしまいました。この資料館では主に「象潟」の歴史や松尾芭蕉の関連資料を収集し、展示しています。そのほか鳥海山や北前船関係の資料、象潟町出身の木版画家・池田修三さんの作品も展示しています。学校とも連携しており、子どもたちが自分のふるさとを勉強しにくる場所でもあります。
市外の団体からは「松尾芭蕉」についての講演依頼がたまにあります。
象潟は秋田県で唯一、松尾芭蕉が訪れた地域だからです。そもそも「象潟」は芭蕉の『おくのほそ道』の目的地の一つでした。
Q:にかほ市象潟町出身の木版画家池田修三さんの作品も多数展示してありますが、資料館で展示するようになったのはどういうきっかけですか?
象潟町役場職員のころ広報を担当することになり、ちょうどその時「広報きさかた」で池田修三さんの作品が表紙を飾っていました。それを引き継いだ時に池田修三さんを知りました。町民も2年間広報の表紙を飾ったことで知った方もたくさんいると思います。
その後、象潟郷土資料館に配属されたとき、池田修三さんの長男や生家から大量の作品と版木やスケッチなどの資料を寄贈していただきました。そして資料館の一室を修三さんの作品の常設展示室として改装しました。毎年テーマを変えて年に2回入れ替えしています。池田修三さんの作品や資料を市に寄贈いただいことが、私の一番の自慢なんですよ。このようなことから、勝手にですけど自分は池田修三さんに縁があると思い込んで力を入れています。
Q:池田修三さんについて教えてください。
にかほ市象潟町出身の木版画家で、子どもを主テーマとして作品を発表してきましたが、晩年は風景画も制作しています。
元々高校の美術部の先生をしていた方で、油絵などもやっていたそうですが、自分には合わないということで木版画を始められました。版画は、何枚も擦れるわけですし、たくさんの人に自分の作品を楽しんでもらいたいという気持ちもあったようです。しかも木版画は色合いがとても鮮やかですよね。学校の先生をやめて、版画家になろうと上京し、制作に打ち込み郷愁あふれる独自の作品をつくりあげています。
地元の人たちは、作品も素敵だし、また修三さんを応援したいという気持ちもあり、しかも安価でもあることから、親しい人に池田作品をプレゼントしたり、新築祝いや結婚祝いなどで贈り合ったりしています。それで、たくさんの家に池田作品が飾られているんです。
資料館では池田修三さんの作品を資料館以外にも市内外の色々なところに展示させていただき、郷愁あふれる池田作品とともににかほ市の文化を発信していきたいと思います。
Q:地元の文化を伝えるために資料館があると思いますが、どういった人が来てほしいですか?
子どもからお年寄りまで来ていただきたいですね。子どもたちにはふるさとの文化にふれてもらって、ふるさとを誇りに思ってほしいですね。
Q:この施設は市外や県外の人たちは来ますか?
むしろ市内の人が少ないですね。池田修三さんの作品が知られるようになり、県内から修三さんの作品を見に来る人は結構います。
全国から資料館に来る目的はやはり鳥海山と松尾芭蕉について知りたいためです。鳥海山や松尾芭蕉の関連資料は豊富にあるのですが、それらの資料を収蔵するスペースがほとんどないのが悩みです。
にかほ市の文化の魅力とは。
Q:にかほ市の文化による魅力はどういったものがありますか?
山、海、こういう自然があるものですから、山の文化、海の文化、それから松尾芭蕉の文学的なこと、全てが集約されています。北前船も来ていて、いろんな分野での資料や貴重なものがあります。全部興味を持ってほしいというわけではないですが、たった一つでもいいから自分がすごく興味があるものを見つけていただければと思います。
Q:こういった文化を残そうとしてる想いなどはありますか?
私たちは恵まれた場所に住んますので、知れば知るほど郷土への誇りや愛着が湧いてくるはずです。そうすれば就職する際に「地元に残りたい」とか、退職後に「地元に戻ろう」という気持ちに繋がると思います。市の素晴らしさを発信することで地元をはじめいろんな人ににかほ市に興味を持っていただく事が我々の仕事です。
Q:文化財を継承、発信しようと思ったのはいつごろですか?
象潟町、そしてにかほ市の文化財担当になってからですね。文化財はその地域の宝物で、アイデンティティです。この地域には貴重な文化財がたくさんあります。それをたくさんの人に伝えたいと考えるようになりました。
Q:将来的にこの場所がどういった形になればいいと思いますか?
にかほ市は博物館系の施設がたくさんあるんですよ。それぞれが連携しながら情報発信しています。その中でもここは象潟郷土資料館だから、象潟九十九島の歴史やそこを訪れた松尾芭蕉などのことをもっと知ってもらう場所にしたいです。
Q:多くの人に来てもらいたいということでしたが、具体的な施策などはありますか?
毎年テーマを設けて、その時の話題に沿った展示を行うようにしています。今はにかほ市の貴重な文化遺産をネットで世界に発信していく時代になったとも感じています。
Q:にかほ市とはどんなところですか?
私はここに生まれたことが一番ラッキーなことだと思っています。
それほどいろんなものがあって、刺激的で誇れるものがいっぱいあります。海も山もあって子供の頃は海で泳いだり、魚を獲ったり、山に行って山菜採りや栗拾いをしたりしました。今の子供たちの遊びと言えば、ゲームじゃないですか。せっかくこんないいところに住んでいるのですから豊かな自然を満喫するとともに独自の歴史や文化を知ってほしいですね。
「象潟」の歴史や文化、そして松尾芭蕉、池田修三さんの作品など象潟郷土資料館を拠点にしてにかほ市のさまざまな宝物を伝え、発信する齋藤一樹さん。
そのまっすぐな行動の裏には、にかほ市への愛が溢れていました。
齋藤一樹さん、ありがとうございました!