今回は、にかほ市で漁師として活躍している佐々木一成さんにインタビューしました。
鮮魚店での勤務経験もあり、SNSで『漁チューバー』としても活躍している佐々木一成さんのルーティンをお聞きしました!ルーティンだけではなく、漁師になるまでのエピソードもお話していただいてます。
Q:ご経歴を教えてください。
地元の高校を卒業するタイミングで漁師になりたかったが父親に反対され諦めた。だが変わらず漁師になりたい思いはずっとあったため、首都圏の水産系海洋生命科学部海洋生物科学科に入学するが、そこでは漁師に繋がる勉強はなかった。
海の生き物にも興味があったため、その部分の学びを深められたのはよかった。また、理系だったため研究の仕方を体系的に学べました。
就職活動では魚に触れたいと思っていたので水産系の会社を探して、鮮魚店に就職。最初はとても苦労し上手くできない自分を悔しく思い、休日も自分から「包丁の使い方を覚えたい」などの理由から働いたりしていた。
Q:鮮魚店では主にどのような業務だったのですか?
新人のころは後片付けから、乾物やマグロの切り落としなどのパック作業。これも作業が遅くて、怒られる日々。アドバイスをもらってもスピードを意識すると作業のクオリティが下がってしまうジレンマもあって、この仕事向いてないなと思った時は何度もあります。自分自身の仕事のできなさに不甲斐なさも感じていた。そこで父親から言われた「人がやらない仕事を進んでやれ。そうすれば見てくれる人がいるからまず人が嫌がる仕事を進んでやれ」という言葉を思い出し、まずは毎日大量に出る魚の内臓や血で汚れる70L位のバケツやグリースストラップを誰よりも綺麗に出来るかということから始めた。
ある日、商品の値段を原価より安く表示して販売したり、作業が遅れてショーケースの商品が欠品したりなど、ほかにも失敗が重なって落ちこんでいた時に課長から「佐々木、頑張ってるな。俺がちゃんと一人前にしてやるからそのまま頑張っていけばいいんだよ」という言葉をいただき、もう少し頑張ってみようと思えた。
そこからパートさん達の頼みなども快く受け入れて頑張っていると、どんどん可愛がられるようになった。売り子のような業務もありとてもいい経験になった。
1年経つ頃に父が病気で亡くなってしまい、にかほ市に帰らなければいけなくなった。この時も帰るなら漁師になりたいと思っていて、父親の火葬場で今の親方も来てて、「漁師やりたいです」と伝え漁師になった。
大学を卒業する時も、父に漁師になりたいと伝えたが「まずは社会を学んで来い」と断られていた。
就活に悩んだ時に漁師になればいいかと思っていたが、それは逃げで漁師を選択していたので今思えば一度就職してよかった。
漁師になってから、父親が死ぬ直前に「こっちに帰って来させて漁師させる」と言っていたらしい。自分の目標は親父と一緒に働いて親父の技術を継げればいいなと思っていたが、そういうこともなく逝ってしまった。
漁師になってからも空気に馴染めず、周りが何言ってるかもわからず、次の仕事って言っても何すればいいかわからないという状況で、2年間ぐらいはやめたいと思っていた。
3年目に入る頃、本当にやめようかと思ったがもう少し頑張ろうと思い、仕事に対する見方を変えた。親方とのコミュニケーションを取るようにして、わからないことがあった場合「こうだったから、こうだったんですか?」という聞き方をするようにしたら詳しく説明してくれるようになった。この時、自分が悪かったんだと気づいた。どんどん仕事も覚え始め、他の仕事も任せてもらえるようになり、漁師が楽しくなった。
この頃から、もともと興味のあった6次産業を考え始め、飲食店への直送を始めた。料理人の人と直接取引していると、「あの魚よかったよ。」「やっぱり他とは違うね」など言われ、とても面白いなと感じた。
コロナ禍を機に『ポケットマルシェ』というサービスに出会い出品を始めた。コロナ禍ということもあり、注文をたくさんいただいていた。
そこで同時に、魚を知らない人もいると思い、捌き方など映像で分かった方がいいだろうなと思いYouTubeで参考のための動画を配信し始めた。また、漁獲してから箱詰めまでも見ることで美味しさがプラスされていくのかなとも思い、漁の様子も配信しはじめた。
Q:今漁師歴はどのくらいですか?
24歳で漁師を始めたので丸8年の9年目ですね。
Q:現在は漁師としてどのような活動を行っていますか?
これからは個人の発信力が重要になってきて、どこで獲れたかではなく誰が獲ったかに興味が向いてくると思う。そうなったときに他の漁師よりも信頼があれば、「一成さんの取った魚が食べたい」と思ってくれるかも知れないし、そうなるためにはもっといろんな動きが必要になる。
現状、ポケマルなどの産直を一船でやっていくには限界があるのでもっと仲間が欲しい。にかほ市の魚を知ってもらうには他の漁師もポケットマルシェを始める動きをしていかないといけないと思うから、まずは自分から先を見据えて先の動きをして、先行者利益を得て、そこで触発される人たちを増やすためにまずは自分が成功しなければと思っている。
最近はもっと地産地消に力を入れたいと考えている。秋田県民でさえ秋田県で採れた魚に感動する姿を見る機会があり、疑問を持った。同じ秋田県に住んでいるのに見えていない所があることに気づき、そこに可能性を感じている。産地が近いのに食べれていない人がいるってことは、そこに魚を持っていければ、魚の価値の向上に繋がるかも知れないよね。魚の捌き方がわからなければそういう教室も開きたいなって思う。
食べることは人生の喜びに繋がると思うからそういうところもやっていきたい。
秋田県のための秋田県に住む漁師みたいな存在に。最終的には、俺の魚が食べたかったら秋田県に来なきゃいけないとか、地域に興味あるから何か秋田県にお金を落とすような形になったら面白いかなって思う。
Q:魚を捌いたりなど考えているとおっしゃっていたが他にも施策はありますか?
漁師のステレオイメージ的な、強面で頑固で短気などのイメージを変えたい。そのために自分がもっと外に出ていった方がいいと思う。漁師と自己紹介しても、「美容師ですか?」と言われたり。自分がもっと知られないといけないなと感じています。
Q:一成さんが行っている漁法について教えてください。
定置網という漁法で、網を仕掛けたらそのシーズンは場所を変えないということをやっています。来る魚を獲る漁法なので、燃料費はそこまでかからないので経費のかからないエコな漁法です。秋は主にサケ。12月はハタハタ。1月からは底建網という定置網の一種でヤリイカとかタラとか。3月になればサクラマスなど。年間を通していろんな魚を見ることができるのがとても面白い。また、魚種の変化で四季を感じられる。例えば、サケが入り始めたら「おっ、秋が来たな」という感じで。こういう面白さも他の人にも伝わって欲しいと思います。
ルーティン
AM 4:30 起床
8時集合だとしても4:30は変わっていない。集合時間が変わることはあるが起きる時間は変えたくない。時間があるときは、前日の振り返りなどを行っています。自分に文章力がないと思ったため日記でも書いてみようかなと思って前日の作業日誌を備忘録的に始めてみました。
Q:それは毎日やられているんですか?
8月の25日あたりから始めて今(2022/05/17)までずっと続けている。ツイッターとかテキストで印象深くなると思うから。文章を書くことで自分の癖なども見えてくる。
それが終われば読書の時間。夕方帰ってきたら子どもに「パパ何してるのー」って寄ってきて一緒に子供と遊ぶことを優先するから、朝は自分の時間を確保するようにしています。
AM 7:00 朝食
朝は時間との戦い。奥さんと一緒にこどもを着替えさせたり。子育ては2人でやるものだと思っている。任せっきりだと片方が疲弊しちゃうからそれは良くない。奥さんあっての自分だと思っている。自分は結構ネガティブになりがち。そうなった時に、「そんなに気にしなくていいんじゃない?」と声をかけてくれる。奥さんはブレのない人で、自分はぶれてしまうから、ぶれてしまった時にグッと修正してくれるありがたい存在。奥さんの幸せな姿を見ることが自分の幸せ。
この仕事をしているから迷惑をかけることが多くて、天候次第で土日いなかったりとか子どもを任せたりすることが多いから、家にいる時間は家事の負担を減らせた方がいいと思うし、洗濯物とかも畳めるときは畳むし。夕方、帰ってくるから翌日の保育園の準備はしたりします。
自分のためにもなるんだよね。もし奥さんが不在だったときに、子供と普段面倒をみてなかったらママを求める。一緒に遊んでいたら、パパと遊ぶってなったり、寝かしつけもパパで寝れるしってなるから、自分のためにも子育てしているって感じ。親に対する子供の好きが半々ぐらいだったらパパでも大丈夫ってなるから、そこをどうやってパパで埋めていくところはあると思う。
AM 7:50 出港&漁場へ。何が獲れるかワクワクする。
Q:何が獲れるかワクワクすると書いてあるが、そういう時に思っていることなどはありますか?
ちょっと早い時間だったら朝日が見れるから、朝日に手を合わせてみようかなとか。やっぱり日の出はいつ見ても神々しいものだと思うし、なんか日本人だなという気持ちにさせてくれる。鳥海山から登ってくるからよりありがたいなって気持ちが出てくる。あとは魚がいっぱい入ってればいいなとかかな。
Q:モチベーションを何か維持するために思っていることはありますか?
毎日いい仕事をしようと思ってる。ベストを尽くしたいなって。やりきらなかったから悔しいとかではなく、今持っている自分の力を出せるようにベストを尽くしていきたいなって感じ。
Q:網を起こしたりそういったところで何かこだわりとかってありますか?
大変なところを進んでやるって感じかな。自分がやることで仕事がスムーズにいくのであればそういう大変な部分も積極的にやってる。
Q:今でもやっぱり親父さんの言葉がこういうところに繋がっているんですね。
そうそう。親父は中卒で漁師になり、初めは遠洋漁業を行っていて色々経験を積んでいたので、「一回外見てこい」ってのがあって高卒から直接漁師にさせなかった。だからこそ外の世界を見てよかったなと思えるし、秋田県だから俺の限界はここまでだとかは思わない。もっと視野を広くできるという考えを身につけさせてくれたのはやっぱり親だったんだろうなって。
あとは、魚の値段は変わらないけれど血抜き作業を行っていることかな。漁師が漁師の魚の価値を決めちゃってる部分があると思うんだよね、この魚って1000円の価値しかないでしょ? って 食べる人に行く時にはもっと3倍4倍とかになっている可能性があるのにもかかわらず、漁師がこの魚は1000円で取引されるものだみたいな固定概念にされちゃってるんだよね。今まではそうやってきてて、どんな取り組みしても魚を高く買ってくれなかったからそこまで手かける必要もないみたいな。
俺たちが手かけてても値段は変わらないけど、その先で食べる人が幸せだったらそれはそれで価値ある魚になっていくのかなって。漁師は魚の価値より先に値段を求めるところがほとんど。そこは意識的な問題だと思っていて、やっぱり価格っていうのは価値が認められて価格が上がるから。
市場に出したら1000円かもしれないけれど、他の人に出したら2000円、3000円になるかもしれないって考えもないんだよね。
そこで自分が動いて直接卸す経験とかをすると、新鮮なだけで価値に繋がったり、価値は一定のものだけでもないんだなと知れる。この魚ってもっと価値あるんだな、価値のあるものにできるんだなってのが見えるからこそ、これからも魚の処理はこだわってやっていきたいなってところがあるね。
Q:血抜きはどこで行うのですか?
港まで生かして持ってきたら荷捌き所で処理したり、生かして持って来れない場合は船上でやるみたいな感じだね。生きているうちに締めて処理しないと魚はダメだからそういうふうにやってるね。血抜きしたやつとしてないやつだと3日後とか全然変わってくるんだよ。血抜きをしていない魚は血が皮目に浮き出てくるけど、血抜きをすると皮は白いままだったりする。魚って内臓や血から鮮度が落ちてくるから、血が多く身に残っちゃうとそこから腐敗が始まりやすい。処理をしていないと死後硬直してから柔らかくなるまでが短くなる。血抜きされたやつだと、死後硬直が2.3日、いいやつだと4.5日は続く。飲食店に卸すまでに魚屋さんと連携がとれるともっとやりやすくなるなって思う。
Q:漁をしている中で、嬉しい瞬間ややりがいを感じることは?
やりがいはやっぱりいっぱい魚が取れたときは「やったぜ」みたいな「これで金持ちなるぜ」みたいな。やっぱりそこが漁師の醍醐味たと思うし。いっぱい魚が上がってるとみんなもテンション上がるし。
辛いときは時化てる時かな?俺は凪悪い時も楽しいんだけどね。凪の時って技術が低くても仕事になるんだけど、海の状況が悪いと一瞬の判断が命取りになってしまう。それまでの経験が活かされるか試される海からのテストだと思っているから、適切な判断でスムーズに作業できたら「俺やっぱり実力つけてきたんだな」って自分の中の確認をしている。
AM 9:00 帰港、魚の選別
Q:箱詰めとかを行う上でのこだわりはありますか?
底網の時だったらやっぱり大きさは揃えるし、だけどあまり魚をベタベタ触らない。ベタベタ触ると鮮度が落ちちゃうから。
Q:ポケマルでの箱詰めだったり作業で感じることとか何かありますか?
蓋をした状態で箱が届くわけだから開けた瞬間に、「宝箱だ!」みたいな購入した人にはそういう嬉しい気持ちになってもらいたい。そのために綺麗に並べたりとか、箱の蓋一つひとつにありがとうって書いたりとか。
こんな僻地の秋田県の魚を見つけて買ってくれてる時点で俺はめちゃくちゃありがたい。感謝は当然としてあるわけで、それプラス、この魚がどういうところで獲れているか知ってもらうために船の上から撮った写真を入れて、裏に直筆のメッセージを入れている。魚だけでなく商品全体を見てあったかい気持ちになってもらえればと思って取り組んでいるって感じだね。
いいコメントをもらう時もあれば、時々「脂がのっていなかった」とかっていうところで判断されることもあるけど、こっちがへりくだるわけではなく「合わなかったんだな」ていうふうに受け取っている。
いろいろな意見をもらうことも勉強になるし、次はこうしようとかって改善しようと思って真摯な姿勢を持って取り組んでいる。
ポケットマルシェは大変だけど面白い。漁師はお客さんの反応とか全く見れないし、自分が獲った魚がどこに運ばれていってるかもわからない。そういうところで自分の魚は誰かの幸せに結びついているのかなって見える化するのはやっぱり漁師のやりがいに繋がってくると思う。
今までと同じことをやっていてもそれは尻すぼみになっていくだけだろうし、現状維持は衰退だと思うから、そこで新しい動きをして、もがいていかないと経験にもつながらないと思うから。だからこそ新しい挑戦はしていきたい。
Q:ポケットマルシェなどを通じて魚や漁師のことを伝えられるという発想からYouTubeを始めたっていう感じですよね。
そうだね。知ってもらいたいからね。漁師ってマグロとってんの?とか、カツオなんでしょって。
漁師をしてるといって、最初の質問は『何釣ってるんですか?』とか秋田県の人からもそういうふうに言われるから、そこでやっぱり知られてないんだなって。秋田県でどんな魚が今取れてるかそういうのも知ってもらえたらなって思うんです。定置網でこういうことをしてるんだよみたいな。
例えばサクラマスっていう魚が獲れるんだけど食べたことない人の方が多いんだよね。美味しいのに認知されてないから選択されない。だからもっと秋田県でとれている魚を認知してもらいたい。
それを伝えられる場所もあったらいいと思うんだよね。
Q :YouTubeではどういった発信を行っているんですか?
自分が取った魚を料理して食べるみたいな感じかな?去年だったらアオリイカをイカ墨リゾットにしてみた。漁師はイカ墨ポンポン捨ててるんだけど、ポケマルで「イカ墨リゾットにして食べました」ってコメントを見て、「イカ墨そんな使い方あるんだ」って思ってやってみた。イカ墨の旨味が濃厚でめちゃくちゃ美味しい!
あとは、あじのなめろうの作り方とか。それを獲ってるところから食べるところまで。獲れてるところから見てもらえれば、よりライブ感出るかなって。それがポケマルで送られてきた魚だったらより味が乗ると思うからやってるね。
AM 9:30 網仕事
Q:次に網仕事、修繕ですね。あみの修繕って網は結びあわせるんですか?
修繕用の糸があってそれで結ぶ。それを手作業で行います。
Q:時間かかりそうですね。
そうだね。通常であれば2日ぐらいで終わるかな、ちゃんと見ていれば。網を新しく作ったりとか、網が壊れたときの修繕の時は時間がかかってなかなか終わりません。
漁師 佐々木一成氏のルーティン Vol.2に続く。
漁師になるまでの想いや、お父様とのエピソードは心にじんときました。続編では、網仕事を終えた午後からのルーティンをお聞きしました!
ぜひ続編もご覧ください!
佐々木一成さんは、秋田県にかほ市で活躍する漁師と、漁師の魅力をぎゅっと凝縮した図鑑「漁師図鑑」にも掲載されています。
Webサイト:https://www.ryoushizukan.com
漁師図鑑の記事はこちら:https://tegake.com/release3/