今回は、和牛繁殖農家を引き継ぎ、上の山放牧場を営む渡邊強さんにインタビューしました。
和牛繁殖農家としての仕事はもちろん、和牛繁殖農家を引き継いだ想いまで聞かせてもらいました。

Q:ご経歴と現在どんな活動をしているか教えてください。

西目高校を卒業し、由利本荘市の和牛繁殖農家さんに2年間研修をさせていただき、20歳で父さんから和牛繁殖農家を引き継いで仕事をしています。
家自体は田んぼがメインで、祖父の代に山形からこっちにきたんですけど、その時に田んぼと牛少々で、父の代で少し増やして現在という感じですね。

Q:物心ついた頃から牛と触れ合っていたんですか?

そうですね。小さい時から遊びがてら手伝ったりしていましたね。

Q:怪我をした経験はありませんか?

大きい怪我はないですけど、足を踏まれたり、分娩が終わったあとなどは母牛の母性がすごく強いので、ツノで突かれたりしますね。
牛は400〜500キロくらいあるので、指先によく乗るんですけどめちゃめちゃ痛いですね。なので危険な仕事ではあります。

Q:なるほど、それは危険ですね…!

ルーティン

AM 6:30 起床と同時に牛舎へ。牛の健康チェック

牛の健康チェック、分娩兆候があるかなどを見ます。

Q:健康チェックってどんなことをするんですか?

顔の表情見るんですけど、耳が横に伸びているのが垂れていたり、草をあまり食べていなかったりすれば、「今日は熱があるんだな」とわかります。
また、子牛の場合は特に弱いので気を遣ってこまめに観察します。

Q:熱がある場合はどうするんですか?

獣医さんを呼んで診断してもらい、薬を処方します。

AM 8:00 帰宅。コーヒーと瞑想。

朝食を食べて、仕事を効率よくするため、コーヒーを一杯飲みます。

たまに、認知能力を高めるために、朝食の前にバービージャンプ2分と瞑想3分をやっています。
脳を鍛えるには運動しかないので、そういった意味を含めバービーをします。それから瞑想に入ります。感情が入り乱れる時があるのでなるべく平常心を保てるようにしています。

AM 9:00 牛舎へ。2度目の餌やり。

AM 9:30 雑務。注文チェックのためサイトを確認。顧客情報収集。

Q:”雑務”とはどんなことをされるんですか?

例えば、牛の体調が悪ければ獣医さんの対応を行ったり、生まれる牛がいたら小さい小屋に移したりします。

Q:”顧客情報収集”は具体的にどんなことをしているんですか?

ホームページにきて、どのページを見ているか、来客がどの時間が多いかなどを確認しています。

AM 12:30 昼食休憩。昼食後コーヒーを一杯。昼寝20分

AM 13:30 雑務

Q:これは午前中と同じような感じですか?

そうですね。基本変わらないですが、田んぼ仕事があれば田んぼを手伝ったりはします。

Q:田んぼ仕事はどんなことをされるんですか?

春になれば田植えなどは僕がやりますし、秋の収穫時期になると稲わらを取るための杭を田んぼに刺すんですけど、それを一本一本刺したりなどですね。

PM 16:00 牛舎に。除糞と4度目の餌やり。

餌やりの前に牛を運動場に出して運動させます。発情行動を起こしてる牛がいたらそこで種付けを行います。

Q:運動させるタイミングは時間を決めているんですか?

いつも同じタイミングですね。牛たちも同じ時間になると外に出たがるんです。また除糞する時に牛が中にいると結構邪魔なんですよね。だから外に出して、除糞もできるし、発情も見れるしちょうどいいんですよ。

Q:発情行動はどんなことをするんですか?

メス同士がうるさくなって、ひどい牛だと鳴き叫んで、走り回ったりなどしますね。

Q:そこで人が介入することで、攻撃的になったりしませんか?

攻撃的にはならないですが、興奮しているので人に乗ってきたり、子どもに乗ったりします。体重30キロの子牛に400キロが乗るので、そこを注意しています。
運動場に出すのはうちくらいだと思います。他のところではスペースもないので、繋いだままのところが多いようです。でも、繋いだままだと発情行動が見えづらいんです。

PM 18:30 帰宅。夕食。

PM 19:00 弓道の練習

由利本荘市に弓道場があるので、そこで練習したりしています。

Q:部活などで弓道をされていたんですか?

そうですね。高校時代に部活でやっていて、その後もずっと続けている感じですね。

Q:ちなみに…仕事の合間に徒手(としゅ)をされているとか。

はい。徒手は弓道の練習の一つで、要はボールを持たずにピッチング練習しているようなものです。大会前になれば、ずっと頭と体に刻み込みたいのでずっとやっています。横断歩道で待っている時など、どこでも…(笑)

Q:大会は今も出ているんですか?

はい。国体や全国大会に秋田県代表で出ていました。
高校3年生の時、インターハイに出て、国体選手になり社会人でも続けようと思い、続けています。

Q:秋田県代表!凄いですね…!

Q:仕事との掛け持ちだと中々大変だと思うのですが、楽しいから続けているのですか?

楽しいのもそうですが、弓道を通して人として成長した経験がありました。それを感じられたので続けています。技術面だけでなく生きる上での学びも多かったし、沢山の方と関わる中で知らなかった事も知れました。また大会で結果を出すためには、精神面もすごく大切でメンタルが乱れないように日常生活も気をつけるようになったり、それこそ色々な人に支えられて感謝の気持ちも知れました。

Q:弓道と今の仕事で繋がるものはありますか?

弓道は最初、みんなから呆れられるほどへたくそだったのですが、コツコツ続けていたのがよかったのか少しづつ実るようになって、弓道ではいわゆる成功したんです。
なので弓道を通して学んだ事が仕事でもなんでも、同じだなという考えを持つことにつながりましたね。

PM 22:30 読書。経営に必要なことや、自分に必要な本を読む

Q:なぜ本を読んでるのですか?

去年から読み始めたんですけど、最初は全然読めなくて…でも経営とかもっと頑張らなきゃと思って読み始めました。

Q:本から今取り入れていることとかありますか?

物事に対する考え方とかは変わりましたし、新しい視点が持てたっていうのはありますね。

AM 0:00 風呂、就寝。

Q:このルーティンは今の時期(※取材時12月)だと思うのですか、夏の時期は放牧を行うと思うのですがその時期はどのようなことをするのですか?

放牧場でのルーティンは牛の写真を撮ったりします。それは絶対にしますね。
牛の体調見て、歩けてない牛がいないか、目の周りに虫やダニなどがついていないかなど体調管理のために行っています。

Q:体調管理の際などに牛を呼ぶ方法はありますか?

クラクション鳴らしたりですね。大きな音を出すと集まってくるのですが、それでも来ない場合はその日は諦めます。

Q:なぜ牛を育てること(農家)をやろうと思ったのですか?

最初は農業が好きじゃなかったんです。小さい頃から手伝ってたので辛くて苦しいイメージがありました。
でも自分の家は土地を持ってて、爺さんの代からここまで続いてきたものだから、その土地とか牛を失いたくないなって思って。祖父と父が頑張って繋いできて、そういう人がいたんだよという生きた証を残したかったからかもしれないですね。

Q:辛かったことはありますか?

繁殖農家は借金をして経営を始めるので、心理的な不安感はすごかったですね。
価格は安定しないし、経費と同じ価格で売れれば収入0だし、特定の病気が発生すれば全頭殺処分だし…はじめはそういう不安感がすごくありましたね。

Q:今後のやりたいことや展開はありますか?

繁殖農家なのでもっと牛を増やしたいです。今は17頭ですが、30頭ぐらいに増やしたいし、そのために牛舎も建てたいです。
また、放牧経産牛をもっといろんな人に知ってもらうために行動を続けたいし、いずれは完全に自分の土地だけで牛を育てられたらなと思っています。

Q:どんな人に食べてもらいたいですか?

こだわりが強い人、自分の育てた牛を食べたいと思う人、霜降りはきついから赤身が食べたいという人にも食べてもらいたいです。経産牛の名前も出して、どういう形で育ってきたかを細かくブログで書いてるんですけど、「この牛を食べているんだ」っていうのを意識する時間を作ってほしいです。命を食べるんだっていうことを考えるきっかけを提供できればいいなと思ってます。

Q:渡邊さんにとって、にかほ市とはどんなところですか?

難しい質問ですね〜。すごくいいところがいっぱいあるのに、地元の人がその良さに気づいていないと感じます。
ポテンシャルはすごくあるけど使いきれてないし、むしろそのポテンシャルを失いかけてるんじゃないかって思います。他にはないところを持ってるんじゃないですか。いい街なんだろうなって思ってます。

和牛繁殖農家としての苦労や、繋いできたものをなくさないため、生きた証を残すというお言葉にも感動しました。
仕事のために取り入れているルーティンも興味深かったです。
渡邊強さん、ありがとうございました!

この記事を書いた人

渡邊強

上の山放牧場を営み、和牛繁殖農家として活動している。由利本荘市の和牛繁殖農家で2年間研修した後、20歳で父親から和牛繁殖農家を引き継ぐ。