今回は、にかほ市の鳥海山山伏修行発起人である須藤絵美さんにインタビューしました。
須藤さんが山伏に触れたきっかけや、山形県で羽黒山伏をつとめる星野文紘先達との繋がり。そして、2022年10月に須藤さんが催行された鳥海山での山伏修行の様子について伺いました。
Q: 絵美さんの経歴と、現在どのような活動をされているのか教えてください。
出身はにかほ市です。生まれ育ちがにかほ市で、秋田市・新屋にある秋田公立美術大学がまだ短大の時代に、そこへ通っていました。なんだかあまりぱっとしない青春時代を、モヤモヤしながら過ごしていました。フリーターもしながら、なんとなく過ごしていましたね。その頃は秋田市にいたんですが、にかほ市に戻ってきて、家の仕事のお手伝いをしながら暮らしていました。
その時、元々英語の先生が住んでいた空き家を父がひょんなことから譲り受けて、持て余している感じでした。「なにか利活用できないかな」と思いまして…。でも、カフェも、旅館とかもピンとこなくって。なにか、「人と人とが繋がったり、人と自然が繋がったりという拠点になるといいな」みたいな感じで、現在はイベントスペースという形でリノベーションしました。
人と人とを繋げるとか、人と自然とを繋げるというその考えのもとになっているのが山伏というもので、私の大尊敬する星野先達(※山形県で羽黒山伏をつとめる星野文紘先達)のおっしゃっていたことなんですね。以前、山伏修行というものに出会ったのをきっかけに、にかほ市での山伏修行についても年1回を目標にやり始めました。そして2022年の10月2日に第1回目を何とか開催、催行させていただきました。
山伏に触れるまで
Q: 山伏というものに初めて触れた、きっかけや出来事があれば教えてください。
象潟地区って結構庄内地方と近いので、食べ物が美味しいということもあって、庄内地方にはしょっちゅう通っていたんですね。そこで「名物山伏がいる」ということを知りました。それが星野先達です。
山伏って、普通にいないじゃないですか。(笑)普通にいないから、単純に興味が出て、「山伏って今もいるんだ。どういうことをやっているのかな」みたいな興味でFacebookをフォローしたんです。そうしたら、本当に日常の中に祈りがあって、「満月の日に海に行って、海で祈ってきた」といった日記的なことを話されたりしていて、本当に日常から山伏として生きているという事に感動したんですよね。
それで一度お会いしてみたいと思って、『大聖坊』(※山形県の羽黒山にある星野先達が営む宿坊)に行ったんです。そしてその時に、「来られるんだったら、ぜひ山伏修行に来てください」と言われたんですけれども、私は全然運動ができない人だったんです。歩くのも「え、何キロ歩くんですか?」みたいな事を先に聞きたいぐらいで…。
本当に運動はできない方だったので、「修行なんて皆さんの足を引っ張るしかなくなってしまうので、ちょっと無理です」とお伝えして、「お話だけ聞きたいんですけれども」という事で行ったのがきっかけでした。
そこから『大聖坊』に何度か通っているうちに、その『大聖坊』の山伏修行を経験済みの方たちにお話を伺う機会がいっぱいありました。厳密には、何をするといったことはもちろん内緒というか秘儀として言ってはいけないものなので、皆さん具体的には何も話さないんです。ただ、その人たちの醸し出す空気というか、キラキラして帰ってくるので、「何が起こっているのかな」と思っていました。「その修行ってどんなもので、なんでこの現代に修行なんだろう」みたいな興味がすごく湧きました。
「でも、自分には体力がない…」っていう葛藤が3年ぐらいあったと思います。今年も何か募集が来たけれど、「山がけに耐えうる体力の者」という条件を見て「やっぱり無理だろう」と思いながら。でも、やっぱり『大聖坊』に出入りする山伏さん達が好きだったので、その仲間に入りたくなったんです。それで、神社主催の神子修行に行くことにしました。もう、清水の舞台から飛び降りるぐらい思い切って。目標が「生きて帰る」でしたから。(笑)そしてやってみたら、本当に皆さんがこれを求める気持ちがわかるなという感じでした。
そして神子修行という修行にドボーンと浸かった後でこっちに帰ってくると、「こっちにもそういう文化があったはずなのに、何もかもここは捨てちゃったんだな」というのを実感しました。そこで「鳥海山でも修業をやっていたら行きたいし、やってみたい。体験してみたいな。」と思いました。そこで星野先達に言ってみたら、「うん。おれが行くからやりなさい」ということで、「はい、やります」となったという流れです。
Q: それまでは、鳥海山での修行というのはあまりなかったんですか?
鳥海山での山伏修行というのは、山伏の家系に生まれて世襲されて、ご神事とかそういう事をされている方々にはまだ残っているのかもしれません。ただ、(山形県の)羽黒山みたいに、一般の人もお祈りしに来るというような文化がないような気がします。私もあまり詳しくはないんですけども、秋田県の何もかもそういったものを簡単に手放しちゃうみたいな感じが気になっています。なんだか「断捨離が得意」みたいで。(笑)伝統的なスタイルでの山掛けが、まだあってもいいんじゃないかなと思います。だけどそれを人に求めるんじゃなくて、自分からアクションしてみようかなと思ってやり始めました。
鳥海山での山伏修行催行にいたるまで。
Q: それが2022年の10月2日に催行されたものですよね。大体何人ぐらい集まってやられたんですか?
スタッフも合わせると22人ぐらいですかね。
Q: 22人というと結構多いですよね。
結構多かったですね。マイクロバスも借りました。
Q: すごいですね。
Q: その山伏修業をやる、ターニングポイントはなんでしたか?
ターニングポイントは、やっぱり神子修行に行ったことが大きかったですかね。
Q: やっぱりそこが一番変わった部分ですか?
はい。なんだか自信になったというか…。どれだけ自分をへなちょこだと思っていたのかわからないけれど、「意外とできるじゃん」みたいな感じで自信になりました。
Q: そこからまた気持ちもどんどん変わっていったと思うんですが、その中でも大変だったことなどは何かありますか?
大変だったことは、どうやって地元の人に協力を仰ぐかですね。やっぱり『大聖坊』に出入りをしていて、『大聖坊』には仲間たちというか…お知り合いはたくさん増えたけれど、これを地元でやるとなったときに誰に助けを求めたらいいかとか、どう理解を求めたらいいかとか、そこが大変だったですね。
Q: 地元の人の協力を仰いだり理解してもらうために、具体的に取り組まれたことはありますか?
具体的には「山伏修行というのをやりたいんです」という事を特に小滝地区の人たちに向かって、言い続けたという事です。あと、イベントスペースのリノベーションを手がけてくれた設計士さんに山伏修行の話をしたら「協力するよ」って言ってくださったので、その協力が大きかったですね。
Q: 周りの人に支えられて実現されたんですね。
支えられないと無理でしたね。
Q: 山伏修行に対して、今どんな思いで取り組まれてますか?
今は…またなんか弱気なこと言いそうだな。(笑)あまり先を考えても、先のことはわからないので、一歩一歩の気持ちで取り組んでいます。山登りと同じく一歩一歩の気持ちで、続けていきたいという思いはあります。星野先達も来年また来てくださるということでスケジュールも空けてくださっているので、まずは一歩という感じですね。
あと、地元に事務局のようなものをちゃんと立ち上げたら、長く続けていけるかなという思いがあるので、そこも目標です。
Q: 山伏さんはこちらでも多いですか?
『鳥海修験』いう言葉をWikipediaで調べると、100年前に滅んだって書いてありました。「おじいちゃんやひいおじいちゃんが山伏だった」という話は聞くんですが…。
Q: 今もそれが引き継がれてるかというと…。
そう、小滝には多分もういないと思います。(山形県の)遊佐の方がもしかすると規模が大きかったのかもしれませんが、そちらの方は私も把握できていないんです。
Q: では遊佐の方には山伏の方がいるんでしょうか?
いるかもしれないですね。宿坊は残っているという話を聞きました。
山伏修行を通じての鳥海山への想い。
Q: 山伏修行などを通して、これから取り組みたい事や、やってみたい事は何かありますか?
今回10月2日に山伏修行をやってみてすごく良かったのが、鳥海山が大好きな人や、地元の人たちと、なんとなく鳥海山にご縁を感じてきた人たちが混じり合ったのがすごく面白くて、すごく良かったなと思いました。これからもそういう場にしたいなというのはありますね。
Q: そういった共通なものがあると、やっぱり繋がりを感じますよね。
そうですね、面白かったです。
Q: 鳥海山以外の場所でも開催を考えたりしてるんですか?
鳥海山以外は、各地で星野先達が修験復活として活躍をされています。すでに仲間の人たちが、私がやったようなことをされているので、「そこに参加者として行ってみたいな」という気持ちはすごくあります。
Q: 10月2日の開催した鳥海山での山伏修行は、どのように参加者を集めたんですか?
ほぼFacebookですね。他にはPeatixでも募りましたが、Facebookが多かったと思います。実は『大聖坊』でのこの山伏修行が、キャンセル待ちが100人ぐらいの大人気でした。
Q: 100人待ちですか?!
そうです、キャンセル待ちが100人です。多分その流れで、こちらにも応募が来てたのかなと思うんです。でも今回不思議なことに、いつもだったら「星野先達にお会いしたくて…」みたいな方がたくさんいらっしゃるんですが、今回は「鳥海山が好きで…」という人がすごく多くて、「この山すげえな」って思いました。(笑)「本当に、みんな鳥海山が大好きなんだな」というのを実感しました。
Q: 遠くから来られた方もいらっしゃるんですよね。
私のお友達ですが、一番遠い所だと名古屋から来られた方がいました。
あとは東京からですかね。でも地元の人が多かったかなと思います。秋田市や酒田市とか…。
Q: すごいですね。県外からも鳥海山のために来られる方が多くいらっしゃるんですね。
Q: 先日初めて私も鳥海山の山頂まで行きまして、どんな感じなのかというのはわかりました。
すごいですね。今回1日修行だったので(行程で)5時間ぐらいを見て、山頂に行くのは諦めたんですよ。鳥海湖までにしたんですけれど…やっぱり山頂いいですよね。
Q: はい。ぜひ来年はタイミングが合えば山伏修行に…。
ぜひ!来年は10月1日です!
Q:では、山伏をなぜ継承していくのか、その思いがあれば教えてください。
なんというか…自然に対して手を合わせるという文化をなくしたくないんですよね。日本人のすごくいいところで、私が好きなところです。山伏というのは、岩とか湖とか自然に対してお祈りをしていくので、そこが私に響いたというか「この心を忘れたくないな」という事もすごく思いました。ですから、それを日々やっていきたいというのが目標です。
Q: 最後の質問ですが、絵美さんにとってにかほ市とは何ですか?
にかほ市はもう自分自身のようでもあり、家という感じで安心の場所でもあるんです。けれども、もう自分にとって近すぎるものなので、いいところも悪いところもなんだかわからないです。にかほ市は自分を見ているような気持ちです。でも、本当に安心できて、自由になれる場所で、大好きな場所ですね。
ご自身が山伏修行を通じて感じられた人と人との繋がり、そして鳥海山をはじめとする自然と人との繋がりを大切にする想いが伝わってくるインタビューでした。
須藤絵美さん、ありがとうございました!