こちらの記事は、『漁師 佐藤栄治郎氏のルーティン Vol.1』の続編になります。

秋田県にかほ市で漁師として活躍している佐藤栄治郎さん。今回は、ルーティンの続きのほかに漁師の考える課題についてもお話をしていただきました!

PM 15:00 港へ向かう

だいたい15時くらいに漁場を切り上げますね。

PM 17:00 帰港、荷揚げ、出荷

そこからまた2時間〜3時間ぐらいかけて港まで帰って、港に帰ってきたら箱詰めしたものを全部荷揚げします。夕方漁港で”競り”があるので、その”競り”に出荷をして、荷揚げと同時にネット販売もやっているのでそっちの出荷も終わったら次の出漁準備をします。

PM 18:00 翌日の準備

翌日の出漁準備をします。船に氷を積んだりとか、燃料を積んだりして船を所定の位置におさめて帰ります。

PM 18:30 帰宅

PM 19:00 水揚げ計算

自宅に帰り”せり”が終わっていればファックスが届いていて、魚の値段がいくらだったのか、その日の水揚げが分かります。それを見て、次はどこに行こうかなとか、ポイントを考えたりとか、こっちの魚よりこっちの魚のほうが単価いいからこっちに行こうかな…とかを考えて寝ます。

PM 20:30 就寝

Q:漁師に若い人は増えているんですか?

徐々に増えています。僕のSNSを見て漁師になりたい人から連絡がちらほら来ます。

Q:この年は良かった、この年は悪かったなどばらつきがあったりするんですか?

あります。激しいです。

Q:ちなみに今年はどうだったんですか?(※取材時2021年)

今年は去年に比べて1,000万くらい落ちてるんじゃないですかね。

Q:驚きです。何によって変わるんですか?

天候が大きいですね。今年の11月は6日間しか漁に出てないです。去年の11月はハタハタが捕れていたけど、今年の11月はハタハタが捕れないとか…。

Q:それこそ今はハタハタ結構問題になってますよね。(※漁獲量の規制。また、県内外から大勢の釣り人が釣り人が集中し、放置されたごみや駐車車両が問題になっています。)

めっちゃなってます。

Q:そういうのがあるとせっかく漁師の方が積み上げてきたものが…。

しかも規制しているのも漁師だけですからね。釣りは無制限だから…。

Q:ゴミだけじゃなくてハタハタ自体も捨てているみたいな話も聞きました。

よくご存じで。(笑)

Q:でも結局そういうのは一般の方が軽い気持ちで行ってしまうんですかね。

内陸の人が多いですよ。

趣味が釣りの人や、日頃から釣りをしているような人じゃなくて、ハタハタがきたから釣りをするみたいな人です。ホームセンターでさくっと道具を買って…。

Q:今、漁師界で抱えている課題はありますか?

後継者不足が一番だと思います。

Q:そこをどう改善していくかですよね。

たぶん雇用形態とかもあんまり知られていないと思います。基本給があるんですよ、ちゃんと会社員と一緒です。普通に基本給があって、水揚げが揚がったらボーナスがつくみたいな感じです。

Q:それを知っている人ってあんまりいないですよね。

いないです。しかも国保じゃなくて社保です。

Q:みんな進路を考えていく時期に漁師っていう選択肢ってないですよね。

そこに漁師っていう選択肢をもっていきたいんですよ。普通の企業と一緒に。

Q:なぜ選択肢にでてこないんですかね。

なんで選択肢にないんですか?(笑) 逆に内陸の学校に可能性があると思っています。海が見えるだけで感動したりするじゃないですか、内陸に住んでいる人。

なんか知らないけど、夏はみんな海を見るじゃないですか、夕日が沈むのとか、「海いいよな〜」とか…「それ仕事にすればいいじゃん」って言うけど「求人あるの?」みたいな。求人しかないのに…。

そこを知ることができるところがあればいいのに…。ハローワークは取り扱ってくれないんですよ、勤務時間が特殊すぎて。特別労働法っていうのが使われていて、だから保険証も緑色の船員保険証っていうやつなんですよ。

Q:なるほど。たしかに学校に求人がきますけど、漁師の求人ってありますか?

ないです。直接、漁業の求人学校に出そうと思ったんですけど、あまりいい顔をされなかったです。ちょっと濁されて終わりました。

Q:みんなの頭の中にそもそも選択肢がないんですよね。

それはやばいですよ。なんで農家も選択肢に入ってないんですか。外部からでもやろうと思えばやれるし、代々受け継がなきゃいけないみたいなルールもないです。

Q:求人があることも知られていないですよね。

求人しかないですけどね。やっぱり一番辞めていく原因は船酔いって言っていました。

Q:栄治郎さんは船酔いはありましたか?

3年間、酔ってました。でもある日急に覚醒して、一回も酔わなくなりました。

Q:漁業体験にきた人や大学生は船酔いがありましたか?

大学生は一日船に乗るので普通にげろげろです。でも体験の場合は、みんな酔い止めを飲んできて、「初めて船に乗った、楽しい」で体験が終わります。

Q:大学生は朝から夜までずっとなんですね。

でも大丈夫な子もいます。酔い止めが効く子と効かない子がいます。来年ぜひ。(笑)

Q:乗ってみたいなと思ってたんですよ。でも船酔いが大丈夫かなと思って…。(笑)

薬を飲んで「うわ!楽しい!」で終わります。

Q:一日乗ると結構しんどいですよね。

初めてだと大変ですね。女の子はトイレの問題とか…。一応、洋式トイレがついてますけど。

Q:女の人もいるんですか?

います。体験は普通に女の人もいます。女子大生で1ヶ月住み込みで体験に来た女の子もいました。

Q:大学生も女性はいたりするんですか?

体験はあります。まだ一日乗るものはないですね。海洋大学の女の子が来て、うちで漁業体験して琵琶湖で漁師になりました。滋賀県の琵琶湖です。ニュース等でもすごい特集が組まれてますよ。注目されてます。

Q:その話、見たことある気がします。

わりと最近かもしれないです。でもちょいちょい話題になってます。

Q:女の人ってやっぱり少ないんですか?

少ないです。海の神様が女って言われていて、女が船に乗ると災いが起きるとか、嫉妬して事故が起きるとか言われて…。

俺はあんまり気にしないというか、誰が決めたのって思っています。山も同じじゃないですか。山も「女は山に入るな」とか…。じゃあ山菜採りは?って思います。意味が分かんなくないですか?(笑)

朝ドラで一時期『尼ちゃん』が流行ったじゃないですか。あのドラマは女が潜ってて、男は入っちゃだめなんですよ。男の人は船の上で待ってて、尼さんが海に潜ってアワビとか捕って…。

Q:でも琵琶湖で女の人で漁師をやられている方とかが一人でもいると。

TikTokにも熊本県かどこかに海苔漁師がいるんですよ、超ギャルの。逆に女の人の方がメリットしかないんじゃないかなと思ってます。

髪型・髪色自由だし、ネイルも自由だし、海が荒れたら休みもいっぱいあるから飲みに行ってクラブ行ってとか…女の人にもメリットがあると思います。

Q:漁師って体力勝負なところあるんですか?

今は機械化が進んでいるんでそんなにないですね。時折、力仕事はありますけど。

Q:じゃあ全然女の人でもできる仕事なんですね。

女の人の方が向いてると思います。網修理とかってほぼ縫い物なので。(笑)

魚を並べる作業とかは、やっぱり器用な人の方が向いてると思います。ガサツな男より、その辺はやっぱり女の人の方が丁寧かなと思います。

Q:魚に触れない…とかだと難しいですよね。

それはでもどうしようもないですけど、魚に触れるってなったら、メリットしかないと思ってます。女の人が自分で船持って、クルージングとか行ったらかっこよくないですか?

女の人の釣りも増えてるじゃないですか。

Q:コロナがあってからそういうのが増えてきましたよね。

めっちゃ増えてます。アウトドアが流行ったじゃないですか。キャンプとかもだし、山ガールとか。

Q:農業やってるギャルとかもバズったり…。

農ギャルみたいに海ギャルもいればいいのにと思います。

Q:いてもおかしくないですもんね。

おかしくないです。漁師で飯食ってたらかっこよくないですか?

わりと女の人の方が根性ありますよ。女の人の方が船に酔っても起き上がってきますね。男はもうだめってなるけど、やっぱり女の人は強いです。

Q:結局それもやっぱり知られていないとか…そこに行き着きますよね。

漁師の雇用形態は割といいと思いますけどね。年間を通して給料が決まってて…仮に3ヶ月連続で水揚げが揚がったってなったら毎月ボーナスです、すごくないですか?(笑)

Q:夢がありますね。

夢がありますよ。

Q:でもそれを知ってもらわないといけないですよね。

僕は役員報酬で固定給っていうのもありますが、乗組員は水揚げが上がれば歩合給なので水揚げが上がった年は僕よりも年収が100万も多い年もありました。笑

Q:みんなに知ってほしいですよね。

知ってほしいですね。勝手に変なイメージ持つの辞めてって思います。

Q:学校の求人も勿体無いですよね。

もったいないです。一次産業をもっと扱って!って思います。

Q:髪色なども明るい色はだめなど会社によっては規定がありますよね。

そういう会社、めっちゃあると思います。しかも普通の会社員なのに茶髪はだめとか。

漁師は何でもいいんですよ、ピンクでもいいし。ダメなことないんですよ、仕事さえすればなんでもいいので。対人の仕事じゃないので。

Q:学校にくる求人は、そういった求人は少ないですよね。

会社員とかばっかじゃないですか。もう求人自体が会社員しかないような世の中の仕組みになってるじゃないですか。

Q:よく考えたらそれって意味分からないですよね。(笑)

意味が分からないです。漁師楽しいのに…(笑)

Q:たしかにみんなそうですよね。

生産者がいないとみんな食べれないんですよ。ITばっかり成長して、食べ物を輸入に頼って…輸入って無駄金じゃないですか?

国内で米の生産数を減らせって言われる意味が分からなくないですか?国内の米で間に合ってるのに、国内の米を減らして輸入して、魚も輸入してますし。だったら捨ててる魚がいっぱいあるからその魚を使えよって思います。

Q:漁師になることが狭き門ってわけでもないですもんね。

全然広いですよ。「やりたいです」って言ったら「ぜひ!喜んで!」って思います。

だって「プロのバスケット選手になりたいです」って言ってるんじゃないですよ。ただ客席にお客さんの一人として入りたいですって言ってるようなもんなので。

Q:学生の時から見る機会とか触れる機会がほしいですよね。そういうのが無くて、いきなり漁師の求人がきましたって言ってもピンとこないですよね。

くるはずもないんですよね。小学校の社会科とかで、地元の水産や地元の農家とかに学ぶ機会があるけど、中学校にあがった瞬間、一気にそれが少なくなるじゃないですか。高校に行ったらもっとそういった学びはなくなります。

Q:その小学校のときの記憶がある人は、いいかもしれないですけど…。

俺はたまたま漁師の家庭に生まれたので身近に漁師という存在があったんですけど、身近になければ感じることもないと思います。

Q:私の周りでも漁師になりたい人はいなかった気がします。

触れる機会がなかったから、なりたいと思う感情もなかったんですよ。

Q:そういうのも含めてSNSの発信を意識されてるんですね。将来こうなっていってほしいなとかはありますか?

まず若い漁師がめっちゃ増えればいいなっていうのはあります。多分、もっともっとこれから衰退していくので。

辞めていく人は出るし、でも船は残ってもったいないし、だったら自分が若い人を10人とか20人とか育てて、自分の育てた人だけで、そのもう一艘を回すような、そういうのをやりたいなと思っています。

Q:楽しそうですね。

めっちゃ良くないですか?えっこグループを作りたいです。

船を二艘とか三艘とか持ってて、だーっとみんなで行って、水揚げをみんなでぐわーっと揚げてみたいな…。楽しくないですか?若い人ばっかりだし、休みはみんな一緒だし、休みのたびにみんなでワイワイ酒を飲んで、やることはやろうぜって。

若い人が来れば、どんどん連鎖反応で若返るかなと思ってます。結構レベルが高いですけど。

Q:でもいずれそうなったらいいですね。

めっちゃ面白いなと思ってます。20代の漁師ばっかりいたら面白いですよね。みんな訳の分からない車とかバイクとかで職場に来て、みんな派手で、ギャル男みたいなやつとか顔中ピアスだらけみたいなやつとか、全然そういうのもいいと思いますよ。でも仕事は真面目みたいな…超かっこいいじゃないですか。

Q:そういうのって話題性もありますよね。

あります。メディアに取り上げてもらって話題になりたいですね!

Q:女の子も結構そうですよね。”先輩が”っていうより”友達が”って感じだと思いますけど。

ノリでいいんですよね。この人とこの日遊びたいけど毎回休みが合わないみたいな…じゃあお前も漁師やれば?みたいな感じで。全部仲間内になっちゃうから、あっちの船で網修理があるとかだったら、みんなで手伝いに行ったりとかそういうの面白いなと思ってます。お互い助け合って、でも沖に出たらみんなライバルではないけど…みんなで頑張って。

Q:やることやっていたらそれでいいですもんね。

仕事は仕事、休みは休みで。

Q:釣りをする人は多いじゃないですか。なので漁師に興味がない訳ではないですよね。

釣りをしてる人は多いし、魚に触れる人もいっぱいいるし、なんで漁師やらないんだろうと思ってます。

Q:普通の仕事というか普通の生活に飽きてる人は結構いると思うんですよね。

そう思います。でもみんなそこから一歩踏み出さないじゃないですか、踏み出す勇気が必要というか。

Q:そう思ってる人が辞めて漁師になったら絶対に楽しいと思います。

絶対楽しいですよ。休みの日だって船で釣りに行けるんですからね。他の人はお金を払って船で釣りに行ってます、しかも時間が決まってる中で。

俺らは自分の時間で、時間無制限でタダで釣り行けるんですからね。いいことしかないですよ。

Q:魚好きの人は最高ですよね。

最高ですよ。

Q:そういうところも知ってほしいですよね。今は何か考えたりしているんですか?

SNSを使って漁業の周知をはかってます。

Q:収入が不安定って言う人って、漁師のことを知らないんじゃないですか?

大間町のマグロ漁とかを見過ぎなんですよ。あれは一人乗りなので、一人乗りで、個人で商売すると、たしかに不安定です。乗組員として雇われる分には保証されています。何もデメリットはないですよ。

Q:なるほど。では最後の質問になりますが、栄治郎さんにとってにかほ市とは何ですか?

自分の誇りですかね。誇りに思える場所です。純粋に、にかほ市とにかほ市の海が好きです。地元の海が好きっていうことですかね。

ルーティンだけでなく、漁師の抱える課題や将来についてまでとても興味深かったです。

佐藤栄治郎さん、ありがとうございました!

この記事を書いた人

佐藤栄治郎

にかほ市で漁師として活動している佐藤栄治郎(さとうえいじろう)さん。隆栄丸の船長として活躍し、TiktokなどのSNSで漁師の魅力を発信している。